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スタジアム観戦でのコロナ感染はどう防ぐ?
岩田教授に聞く「観客入場」
スポーツ観戦における「ニューノーマル」とは? 岩田健太郎教授の提言に耳を傾けたい
スポーツ観戦における「ニューノーマル」とは? 岩田健太郎教授の提言に耳を傾けたい【(C)『新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる』エクスナレッジ】

 7月6日、第11回新型コロナウイルス対策連絡会議が行われた。その後のメディアブリーフィングで、Jリーグとプロ野球は当初の予定通り7月10日から上限5000人(または収容人数50%以下)、8月1日から収容人数の50%で観客を入れることを明らかにしている。東京都の感染者数が7月2日から6日まで、5日連続で100人を超える中、この決断の意味は重い。現地観戦するファンやサポーターには、リモートマッチ以上の自重が求められるからだ。


 ウィズコロナ時代のスポーツ観戦が本格化するのに先立ち、神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎さんに、再び話をうかがう機会を得た。今年2月、横浜港に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号に乗船し、その内情を動画で告発したことで知られる岩田さん。実はヴィッセル神戸のファンでもあり、このほど『新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる』(エクスナレッジ)という新著も上梓している。


 前回のインタビューでは、無観客試合に絞って話を聞いたが、今回のテーマは「観客を入れた試合」について。すでにチケットも発売されているし、整列入場に加えてイベント開催や飲食・グッズの販売も解禁される予定だ。それでも、久々にスタジアムを訪れたファンやサポーターは間違いなく、観戦環境の激変ぶりに面食らうことだろう。今回も岩田さんの提言に耳を傾けながら、スポーツ観戦における「ニューノーマル」について考える契機となれば幸いである。(取材日:2020年6月25日)

観客入場はちょっと早すぎる

J1は7月4日に無観客で再開。プロ野球とJリーグは10日から予定通り観客を入れて開催していく
J1は7月4日に無観客で再開。プロ野球とJリーグは10日から予定通り観客を入れて開催していく【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

──プロ野球の開幕に続いて、Jリーグでも再開日(6月27日)が近づいてきました。先生は感染症の専門家であると同時に、サッカーファンでもあるわけですが、後者の立場からするとどんな感想をお持ちでしょうか?


 個人的には楽しみにしています。僕自身、Jリーグがない喪失感は自分でもビックリするくらいに感じていました。思い出したのが、1993年のJリーグ開幕です。当時は大学生でしたが、テレビの前で正座してキックオフを待っていました(笑)。今ではJリーグは所与のもの、あって当たり前のものと誰もが思っています。それが失われて、また戻ってくるという感覚は、初めてJリーグを見たときの衝撃に近いものがあるかもしれません。


──なるほど。一方で残念なニュースもありました。プロ野球開幕日(6月19日)に、東京ドームに150人くらいの巨人ファンが集まってきて、密の状態を作ってしまっていたことが報じられています。なぜ無観客で試合が行われているのか、あまり考えていない人がけっこういることが明らかになったわけですが。


 その点については、僕も心配しています。緊急事態宣言の間、日本人は法的拘束力がない中でステイホームを続けていたわけですが、これは決して「日本人が真面目だから」ではないと考えています。日本人は他国の人と同じくらい、真面目な人も不真面目な人もいると思うんですが、極めて同調圧力が強いんですよね。みんなが自粛モードになったら自粛するんですが、みんなが緩(ゆる)モードになったとたんに緩くなってしまうんです。


──確かにそうですね。


 米国では今、経済活動を再開させる方向に進んでいますが、ちょうどそのさなかに「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)」のデモが各地で起こって、あちこちで密の状態ができてしまっています。実際に今、米国では感染者数が急上昇しているんですよ。この1週間だけで、テキサスやフロリダやアリゾナで2万人もの感染者が出ている。日本は、ここまでで1万7000人くらいですからね。米国は極端に走る傾向がありますが、日本にも似た傾向があります。熟慮が足りないというか。


──そうした中、7月10日以降からスポーツイベントでの入場者を認める方向で進んでいます。先生のお考えはいかがでしょうか?


 ちょっと早すぎるかなと思いますよね。ヨーロッパのリーグでも無観客が続いている中、日本がぽっと戻してしまうのは正しい判断なのか。おそらく戻してみて分かる、不測の事態や予期せぬ問題も出てくると思うんです。緩めるとコロナは戻ってくるというのは、すでに明らかになっていることです。


 何というか、焦りすぎている感がありますよね。一度「戻す」と決めたら、一斉にみんなで戻してしまう流れができてしまうんですよ。日本社会全体が、空気で物事を決めてしまう傾向が顕著です。何か行け行けモードになると、あまり考えないでそっちに方向に行ってしまう。そこの部分を心配しています。

もし感染者が出たら無観客に戻す?

プロ野球は6月19日に無観客で開幕。それでも東京ドームにファンが集まった
プロ野球は6月19日に無観客で開幕。それでも東京ドームにファンが集まった【写真:アフロ】

──日本社会にそういった傾向は、確かにありますよね。とはいえ、Jリーグもプロ野球も、政府判断と専門家の意見を参考にしながら、熟慮の末に7月10日から入場を認める方向で進んでいると思います。そこで観客を入れるにあたり、まずは主催するリーグ、あるいは球団やクラブの側が気をつけるべきことについての提言をいただきたいと思います。次のフェーズに進んだとき、最も重視しなければならないことは何でしょうか?


 感染者が出たときにどうするのか、前もってルールを決めておくことですね。観客の中から感染者が出た場合、あるいはスタジアムかその周辺でクラスターが発生した場合、リーグやクラブや球団としてどういった対応をするのか。何かトラブルが起こってから「さあ、どうしよう?」ではダメです。トラブルが起きるという前提で、決めておく必要がありますね。


──もし観客から感染者が出た場合、例えば無観客に戻すとか?


 ひとつのスタジアムからひとりの感染者が出たからといって、ヒステリックに無観客に戻すというのも問題なわけです。まず、濃厚接触者を探し出すために「リング」というものを作って、その範囲で検査をするのがわれわれのやり方です。最初から大勢の人を検査するのではなく、リングを作って効率的に濃厚接触者を見つけていくのが基本です。


 あるスタジアムで感染者が出たからといって、別のスタジアムにまで連帯責任を取らせるのは意味がないですよ。そのスタジアムだけを次は無観客にする、あるいはリングの中に感染者がいなければ、それで終わりにしていいと思うんです。こういったことは、感染症のプロフェッショナルマターですので、専門家がルールを決めれば済む話です。


──日本には連帯責任をよしとする、奇妙な文化があるわけですが。


 みんなで責任を取ることで「やった感」を出すわけですよね。「やった感」というのは、僕が大嫌いな言葉なんですが(苦笑)、そういうポーズを取るために処罰するというやり方は非常に危うい。感染症対策というものは、純粋に科学的に考えていかなければなりません。「感染者を増やさない」ことを明確な目的として、次は無観客に戻すのか、観客を増やすことを延期するのか、科学に基づいたプロトコルを作る必要があるわけです。


──今のリングの話ですが、要するに観客がどの席に座っていたのか、きちんと記録を残しておくことが必要ですよね?


 そうです。ですから、全部指定席にする必要がありますね。


──その上で実際に感染者が出たら、すぐに追跡調査が可能となるような情報を紐付けておく必要があると。


 そうです。その場合、保健所のクラスター対策班が担当することになると思うんですけど、感染者の周辺に誰と誰がいたのかという情報を、同意を得ながら共有していく必要があるわけです。そのためには、クラブもしくはリーグと保健所の間で、情報公開のためのルールや約束事を決めておく必要があります。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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