スタジアム観戦でのコロナ感染はどう防ぐ? 岩田教授に聞く「観客入場」

宇都宮徹壱

対策はマイカー、全席指定、前売り…

スタジアム観戦ではアクセスの際の感染対策が難しい。マイカーでの来場は効果的とも 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

──前回、無観客試合に関するインタビューの際にも指摘されていましたが、スタジアムへのアクセスは主催者側がコントロールできない難しさがあります。それでも取り得る策があるとすれば、どのようなものが考えられるでしょうか?

 難しいですよね。あまり現実的ではないかもしれませんが、スタジアムに入場する時間を段階的に指定するというのはありかもしれません。熱心なコアサポーターだと、何時間も前からスタジアムに来るじゃないですか。それを主催者側が入場時間を指定することで、移動する間の密の状態を回避する。試合が終わって帰路につくときも同様です。理論的には可能だと思うんですけど、あまり良いアイデアとは言えないですね(苦笑)。

──むしろマイカーを奨励する、というのもありかもしれないですね。

 それは僕も考えました。公共交通機関を使った方が、環境にも優しいし渋滞解消にもなるんですが、コロナの場合だとむしろマイカーの方が都合はいいんですよね。もちろん、駐車場のキャパシティには限りがありますけど、最初は最大で5000人の入場を認めるわけですよね? その1割の500人くらいに、マイカーで来てもらうというのは、対策としてありなのかもしれません。

──いずれにせよ主催者側としては、できるだけ密の状況ができないようなルールを作っていく必要があるわけですね。サッカーファンは他のスポーツファンに比べて、行列に並ぶことへのハードルが極めて低いのですが、まずは行列を作る原因をひとつひとつ潰していく必要があると。

 その意味でも、チケットは当面、全席指定にした方がいいと思います。場所取りという行為は、行列の根拠になりますから。それと当日券に並ぶことを考えると、すべて前売りにした方がいいかもしれないですね。

──他に行列の原因になるものとしては、スタジアムグルメもあります。

 スタグルは当面の間、やらない方がいいかなと思います。もちろんビジネスの問題なので、いろいろ軋轢(あつれき)はあるとは思いますが、それでも最初はやらない方がいいでしょうね。何度も言っていることですが、こういったことを急に戻すのは危険なんですよ。少しずつ、慣らしていくことが重要なんです。先日、(サッカー番組の)『MUNDIAL JPN』というポッドキャストを聞いていたら、ファジアーノ岡山は自宅で観戦しながらスタグルを楽しめる、といった興味深い仕組みを作ったそうです。このへんは、たくさんアイデアが出せると思います。

──なるほど。スタグルと関連して、アルコールについても当面は禁止となるようです。生ビールを飲みながらのスポーツ観戦は、私も大好きなんですが(笑)、やはりコロナ対策ということを考えると「リスクあり」と判断せざるを得ないんでしょうね。

 アルコールそのものにリスクはないんですけど、お酒が入るとどうしても抑制が利かなくなって大声を出してしまいますよね。それが飛沫による感染につながることを考えるなら、禁止というのは賢明な判断だと思います。

新しい観戦スタイルにも「慣れることはできる」

神戸は今季開幕戦、感染対策として応援を禁止した。かつての観戦スタイルが戻る日は来るのだろうか 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

──いちサッカーファンとしては、スタンドが密の状態になって大声でチャントを歌い、ビールやスタグルを楽しみながらスタジアム観戦ができる環境が戻ってきてほしいと思っています。けれども現状を鑑みると、そうした状況は当面は難しいのでしょうか?

 世界的な情勢を見る限り、いわゆるパンデミックが終わる見通しが立っていないのが現状です。向こう1〜2年、コロナの問題が完全に終息する可能性は極めて低いと思っています。決定打となるようなワクチンが、すぐに開発されることも、あまり期待しない方がいいでしょう。もちろん、僕の予想が間違っている可能性もあるわけですが。

──そうなるとサッカーファンのみならず、あらゆるスポーツファンが「ニューノーマル」の観戦スタイルを受け入れざるを得ないということですよね。われわれは、それに順応することができるんでしょうか?

 できると思いますよ。人間は「慣れる動物」なので、慣れてしまえば「そんなものか」と受け入れられると思っています。実は僕、20歳くらいのときにイギリスに留学していて、マンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラフォードとかでサッカー観戦していたんです。1990年代初頭の話で、まだ立ち見席があった頃ですよ。当時はお金がなかったから、そこでよく試合を見ていたんですけど。

──96人が犠牲となった「ヒルズボロの悲劇」が89年ですからね。当時はまだ、ギリギリでテラス席があったということでしょうか。

 まさにそのタイミングです。結局、あれはセキュリティー的に問題があるということで廃止されたわけですけど、いわゆるオールドファンは「古き良き時代」としてテラス席を懐かしむわけですよ。でも、あの時代を知らない世代が、当時の映像とか見たら「なんて野蛮な観戦環境だろう!」って、ビックリするわけです(笑)。

──局地的な大事故と、世界的なパンデミックという違いはありますが、今から30年前にも観戦環境が激変して「ニューノーマル」が推奨された時代があったということですよね。

 そういうことです。ちょっと言葉は悪いですけど、現状を考えるなら「試合が観られる」ということが大事なわけで、そこから先のサービスというものは、上乗せのぜいたくであるわけです。声を出しての応援ができない、待機列を作れない、スタグルを楽しめない。いずれもつらいことではありますが、まずは「すべてを失うよりかはマシでしょ?」という発想に立つ必要があると思います。

──サッカー的に言えば、状況によって「リトリートすることも必要」ということですよね。あるいは「我慢の時間帯」とか。そうした考え方は、感染症対策にも当てはまると。

 そういうことだと思います。先日、ある企画で(アンドレス・)イニエスタ選手とメールのやりとりをする機会がありました。そこでの気づきは「状況判断」という点において、サッカーと感染症対策はとても似ているということでした。コロナ対策を「知的なゲーム」と言うと語弊はありますが、状況に応じて正しく的確な判断をするという点では、サッカーの試合とわれわれの仕事は変わらないと思っています。もっとも僕はイニエスタ選手のように、常に正しく的確な判断ができているわけではありませんが(笑)。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

【(C)『新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる』エクスナレッジ】

1971年、島根県生まれ。神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。島根医科大学(現島根大学)卒業後、ニューヨークで炭疽菌テロ、北京でSARS、アフリカでエボラ出血熱の臨床を経験。亀田総合病院の感染症科部長を経て、2008年から現職。
サッカーは小学2年生から始め、現在はヴィッセル神戸のサッカースクールでディフェンダーを務める現役のフットボーラー。心のクラブはマンチェスター・ユナイテッドとヴィッセル神戸。好きな選手はジョージ・ベスト、クライフ、プラティニ、そしてイニエスタ。サッカークラスタ界隈では「世界一感染症に詳しいヴィッセル神戸のサポーター」としてその名を轟かせる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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