野球の面白さと怖さが凝縮された3連発 2017年・DeNAのミラクルを振り返る

カネシゲタカシ

【イラスト:カネシゲタカシ】

 プロ野球にはたくさんの名勝負・名場面が存在する。今回は横浜DeNAが三者連続ホームランで逆転サヨナラ勝ちを収めた、2017年8月22日の広島戦にスポットを当てたい。ベイスターズファンの漫画家・コラムニスト、カネシゲタカシさんが振り返る。

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 ベイスターズファンの「銀行の暗証番号ランキング」トップ5を勝手に想像してみた。

 まずは日本一に輝いた年号「1998」と「1960」がランクインだ。そして永遠番長・三浦大輔の決めゼリフ「4649」(ヨ・ロ・シ・ク!)も当然入る。さらに2013年、代打から途中出場の多村仁志がサヨナラ弾含む2本のホームランを放ち、巨人相手に7点差を大逆転した「0510」(5月10日)もランクインするだろう。

 そして最後は「0822」だ。

 2017年8月22日。この日の横浜DeNAはプロ野球史上初となる「3者連続ホームランによるサヨナラ勝利」をおさめた。しかも首位・広島を相手に。ベイファンの多くが横浜銀行ATMの暗証番号を押すたび「筒香、ロペス、宮崎〜!」とあの日の興奮を蘇らせ、周囲から不審者認定されていることだろう。

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こんなミラクルあるか。こんなデタラメあるか。

逆転劇の口火を切る一発を放った筒香 【写真は共同】

 本拠地・横浜スタジアムに広島を迎えての3連戦初戦だった。当時3位のDeNAは、前カードで4位・巨人に3連敗。引き離すつもりが逆に2ゲーム差に詰められ、クライマックスシリーズ(CS)進出に暗雲が漂っていた。

 7回終了時点でスコアは1対5。広島の先発・野村祐輔の前にベイ打線は沈黙。前日からの悪い流れもあり、多くのファンが敗戦を覚悟していた。

 しかし8回裏、途中出場の嶺井博希がソロホームランを放ち、ドラマは動き始める。思い出すのは前年のCSファーストステージ第3戦。巨人との総力戦に決着をつけたのは途中出場・嶺井のタイムリー二塁打だった。ベイファンにとって「途中出場の嶺井」はドラマを呼び込む装置なのだ。

 そして2対5のスコアで迎えた運命の9回裏。完投を目指す野村から、先頭の2番・柴田竜拓がヒットで出塁。すると続く3番・筒香嘉智がライト最上段に飛び込む特大の2ランホームランを放つ。弾道を確かめて「しゃーっ」と短く吠えた筒香。沸き上がるスタジアム。ついに1点差だ。

 慌てて広島はピッチャー交代。だがマウンドに上がった守護神・今村猛に、今度は4番・ロペスが襲いかかる。カープファンが赤く染めたレフトスタンドに飛び込む、情け無用の同点ホームラン。もうハマスタはお祭り騒ぎだ。

プロ野球史上初の三者連続アーチによるサヨナラ勝ちに沸くDeNAナイン 【写真は共同】

「ベイスターズはパンクロックである」

 これは自分の持論である。ダメなときはとことんダメ。しかし調子に乗ると常識はずれのとんでもないことを巻き起こす。良く言えばミラクル。悪く言えばデタラメ。そんな意を込めている。

 まさにこの日のベイスターズがそれである。5番・宮崎敏郎が打席に入る。歓声にかき消され「ロード・オブ・メジャー」の出囃子は聞こえない。しかし“本物のパンクロック”はもうそこにあった。甘く入った2球目を振り抜いた宮崎。打球は低い弾道のままグングンと伸び、レフトスタンドに飛び込んだ。

 サヨナラ! サヨナラ! プロ野球史上初となる3者連続ホームランによる劇的なサヨナラ勝利だ。こんなミラクルあるか。こんなデタラメあるか。端的に言うと最高だ。

 鳴り止まない怒号のような歓声がハマスタを突き上げる。その歓声を背に、静かにマウンドを降りる今村。ベンチで呆然とする先発の野村。ほんの10分前までゲームを支配していた「主役」たちは、あれよあれよという間に「引き立て役」に陥落していた。野球の面白さと怖さが凝縮されたシーンだった。

 ちなみに。この日もハマスタの外では巨大ビジョンによるパブリックビューイングが行われていたのだが、そこで宮崎のホームランが飛び出した瞬間、興奮した隣のオバさんに思いっきり抱きしめられ、肋骨を6本骨折したという女性を僕は知っている。「仕事帰りだったのに労災下りなくてね……」。そうしみじみ語ったそのベイファンの女性のエピソードは『みんなのしあわせになるプロ野球』(カネシゲタカシ編・講談社)に掲載されている。余談と宣伝でした。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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