悔しさを胸に完全移籍を決断した秋野央樹 新キャプテンは長崎で再びJ1昇格に挑む
高精度の左足で巧みに中盤をコントロールする秋野。かつてリオ五輪を目指すU-23代表でも指導を受けた手倉森監督の信頼は厚く、2年目の今季はキャプテンに指名された 【(C)J.LEAGUE】
充足感を味わいながらもどかしさも
1度目は2016年のシーズン終了後。9歳から在籍していた柏レイソルでレギュラーに定着しながら、J2に降格した湘南ベルマーレの移籍を決めた時だ。自身の成長やA代表に入って活躍することを考え、プレーの幅を広げたいという思いが、決断の理由だった。
そして昨年末、秋野央樹はJ2に所属するV・ファーレン長崎への完全移籍を決断した。
昨シーズン前半戦の湘南での貢献度や、すでに昨夏には長崎に期限付き移籍していたことを考えれば、1度目ほどのインパクトはない。だが、J1でプレーする選択肢もあったなかで、J2で12位に終わったチームへの移籍を早々に決断することは、決して容易ではなかったはずだ。
「このチームをJ1に上げたいというのが大きかった。J1でやりたいというか、そういう話もあったけれど、このクラブでなら何か大きなことができるんじゃないか、そこに自分の力を注いでみたいと思いました」
長崎へ完全移籍した理由を、秋野はそう語る。
思えば昨シーズン、長崎加入後の秋野はボランチの定位置を確保し、プレーできる充足感を味わいながらも、常にもどかしさを感じているようだった。
「どんなに良い選手、良い監督がいても、チームが一つにならないと勝てないのがサッカー。もっと自分たちで一つになっていかないと」
1年でのJ1復帰を目標としながら、ハードスケジュールの中で苦戦し、中位に沈んでいくチームに歯がゆさを覚えていたのだろう。柏から湘南へ移籍した年にJ1昇格を果たし、翌18年シーズンは主力としてJ1残留も経験している秋野だけに、なおさら悔しさがあったに違いない。その悔しさが、「去年はできなかったJ1昇格を、自分がチームを引っ張ることで成し遂げる」という決意につながった。
本人もキャプテン就任を希望していた
「自分にできることを100%トレーニングからやる。若い選手もベテランも、それを見て何かを感じ取ってもらいたい」
柏や湘南、さらにリオデジャネイロ五輪を目指す年代別代表チームでも見せた強いリーダーシップを、長崎で発揮する準備は整った。
開幕前のキャンプで、チームはJ1勢相手も含む10試合のトレーニングマッチをこなし、9勝1敗と好結果を残した。しかし秋野は、勝敗よりも試合内容やチームの状態を強く意識することを忘れなかった。
「ボールをつなぐ意識は去年より高くなっていると思う。ボールに関わろうという部分は高まっている。取られた時の切り替えの部分は、もう少しやらないと。相手に取られても、すぐにプレスに行って、そこで奪い返せれば楽になる。その成功体験を増やして攻撃的な守備を積み上げたい」
「ボールを取られた後、前線の選手は自分から奪い返しに行かなければいけないし、後ろの選手はもっと『行け』という声を出さなければいけない。自分たちでボールを持ちたいスタイルなので、相手に持たれたらやりにくさがある。そこでいかにボールを奪って、次の攻撃につなげていくかを考えなければいけない」
一方で、トレーニング内容やチームのムードには満足げだった。
「去年に比べると、トレーニングの強度がかなり高い。チームの雰囲気がすごく良い。一丸となってやれている実感がある。」
どんなにブサイクなゲームであっても
それでも試合後の秋野は、プレシーズンとは真逆の、内容よりも結果を重視するコメントを口にしている。
「攻める数は少なかったが、リスクマネジメントはできていた。開幕戦で硬くなるのは分かっていたので、そのなかで勝てて良かった」
内容をおろそかにしているのではない。目先の結果を喜んでいるのでもない。そこにあるのはJ1昇格からの逆算だ。
「去年の天皇杯準決勝のようにみんながまとまれば、相手が鹿島アントラーズでも脅かせる(2-3で惜敗)。それには今の良いムードを最後まで続けていくことが大事。そのためにも勝つ。どんなにブサイクなゲームであっても、相手にボール持たれても、勝たなければならない」
かつて湘南でJ1昇格とJ1残留を達成したレフティは今、同じ目標に向かって再びチャレンジの中にいる。より高いレベルで、より成長してJ1へ。新型コロナウイルスによる中断期間も、秋野央樹は牙を研ぎ続けている。
(企画構成:YOJI-GEN)
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