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前寛之はただひたすらボールを追う
自分超えと、福岡のJ1昇格を見据えて
水戸での2シーズンで格段に成長した前は、J1でも十分に通用する実力を備える。5年ぶりのJ1昇格を目指す福岡の最大のキーマンと言っていい
水戸での2シーズンで格段に成長した前は、J1でも十分に通用する実力を備える。5年ぶりのJ1昇格を目指す福岡の最大のキーマンと言っていい【(C)J.LEAGUE】

 監督が代わり、陣容も刷新された今季のアビスパ福岡は、まったく別のチームに生まれ変わった。その新生アビスパでチームの中核を担うのが前寛之だ。長谷部茂利監督とともに水戸ホーリーホックから来たボランチは、中盤の要としてゲームをコントロールするだけでなく、移籍1年目にしてキャプテンの重責も負う。彼の視線の先にあるのは、去年の自分を超えること、そして福岡のJ1昇格だ。

ポジショニングとボール奪取の巧さは出色

 昨季、J2の残留争いに巻き込まれたアビスパ福岡は、立て直しの切り札として、水戸ホーリーホックをJ1昇格争いができるチームにまで引き上げた長谷部茂利氏を監督に招へい。そしてチームの半数にあたる15名の選手を獲得して、チーム改革に取り組んだ。


 新戦力の顔ぶれは、遠野大弥、東家聡樹ら即戦力ルーキーのほか、それぞれのチームの中心選手として活躍した選手ばかり。それはクラブを挙げて「改革」に取り組むという強い意志の表れだった。


 そして迎えた2月23日のJ2開幕戦。ミクニワールドスタジアム北九州に現れた福岡の選手たちは、その意志の強さを示すようにピッチで躍動した。


 ベースとなるのは疲れを知らない豊富な運動量。全員が連動して高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪い、素早く「守」から「攻」に切り替えて、シンプルかつスピーディーに相手ゴールに迫った。攻守にわたって全員が連動するアグレッシブなサッカーは、まさにクラブが志向するもの。福岡はアウェー側のゴール裏で声援を送るサポーターの前で、昨季までとは違うチームに生まれ変わったことを印象づけた。


 その中心にいたのはボランチの前寛之だ。攻守にわたって躍動するチームをピッチの中央で支え続けた。出色だったのはポジショニングとボールを奪い取る技術の高さ。攻撃の時も、守備の時も、ポイントとなるスペースを事前に察知。ここぞというところに必ず前の姿があった。そして相手との距離を測り、抜群のタイミングで身体を入れてボールを奪い取った。


 前半はダブルボランチの一角としてプレーしたが、後半途中からは少しポジションを下げてアンカーとしてプレー。ゲームを的確にコントロールして、ギラヴァンツ北九州に反撃の機会を与えなかった。

ここでなら成長できるし、上に行ける

 北海道コンサドーレ札幌のアカデミーで育った前は、第21回高円宮杯U-15選手権の準優勝、第20回Jユースカップ優勝、第21回Jユースカップのベスト4などに貢献。さらにはU-18日本代表候補に選出されるなど、ジュニアユース、ユース年代の頃から将来を嘱望されていた。


 その才能が開花したのは2018年に水戸へ移籍してから。当時、水戸の指揮を執っていた長谷部監督の下でチームの主力に成長。昨季の水戸は最終節までJ1昇格の可能性を残していたが、めざましい活躍でチームをけん引した前はJ2屈指のボランチと呼ばれるまでになった。


 今季はさまざまな選択肢があるなかで福岡に移籍。長谷部監督の下で引き続きプレーすることを選択した。長谷部サッカーを理解する一人として、それをチームに伝える役割があることも意識した上で、福岡行きを決断した理由を次のように話している。


「新たなチャレンジ。在籍しているメンバー、新しく入るメンバーを考えた時に、ここなら自分も成長できるし、上に行くことができるというのが率直な思い。今年1年、どうできるかは自分次第。後悔のないように過ごしたい」


 持ち味は開幕の北九州戦でも見せた通り、ボールを奪う能力の高さとゲームをコントロールする力。「チームにいたら助かる、と思ってもらえればうれしい」とは本人の言葉だ。長谷部監督も「チームを引っ張る言動、プレー、攻守にわたっていろんな場面でチームのタスクを背負っていける選手」と信頼を寄せる。移籍初年度にもかかわらず、長谷部監督がチームキャプテンに指名したのも、前に対する期待の表れだろう。

新たな場所で新たな自分を見つける

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリーグ戦が中断するなか、前はさらなる成長を目指して日々のトレーニングに取り組んでいる。


「リーグ中断は経験したこともないし、延期されたものがさらに延びて、どのように気持ちを持っていくかというところは本当に難しいが、いまこの期間をより良いものにできるように取り組んでいる。マイナスなことではないと思うので、前向きに捉えていきたい」


 長谷部監督が目指すサッカーのベースは水戸時代と変わらぬものだが、選手が代われば求めるものも変わってくる。ましてやクラブの目標は「J1自動昇格」。求められる質は当然のように高くなっている。


 去年からの継続ではなく、新たな場所で新たな自分を見つけることが次なるチャレンジ。そして、長谷部監督と今年のメンバーとともにJ1に自動昇格することが今季の目標だ。それを達成できれば、得点1の差でJ1昇格プレーオフ進出を逃した昨季の悔しさを晴らすことにもなる。


「リーグ再開が本当に待ち遠しい。今後どのようになるか決定を待ちたいが、自分たちは再開に向けて調整し、気持ちをもっていきたい」


 自分にはどうにもならないことに気を取られるのではなく、自分のチャレンジのため、そして自分に与えられた使命を遂行するべく、前はただひたすらに目の前のボールを追う。その先に去年の自分を超える自分があり、そして福岡のJ1昇格がある。再開後に見せてくれるであろう進化した前を楽しみにしたい。


(企画構成:YOJI-GEN)

中倉一志

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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