連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

神戸アカデミーの後輩たちの視線を背に 安井拓也のプロ4年目は「結果」にこだわる

高村美砂

今季はすでにACLの2試合で先発出場。卓越したゲームコントロールで勝利に貢献した。35から14へ、背番号は軽くなったが、チーム内における存在感は日増しに大きくなっている 【(C)VISSEL KOBE】

 チーム内競争の激しいヴィッセル神戸において、昨季は公式戦22試合に出場。アンドレス・イニエスタの控えという難しい役回りをこなしながら、アカデミー出身の安井拓也が着実に成長を遂げている。それでも、21歳の若き司令塔は満足していない。トップチームを目指す多くの後輩たちの視線を背に、プロ4年目は目に見える「結果」にとことんこだわる。

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信頼をつかんだ昨年5月の湘南戦

 アンドレス・イニエスタやトーマス・フェルマーレン、ドウグラス。日本代表クラスなら山口蛍や古橋亨梧、西大伍、酒井高徳……。今年最初のタイトル獲得となった富士ゼロックススーパーカップしかり、近年、ヴィッセル神戸のスターティングメンバーには、大型補強によって集められた華やかな顔ぶれがそろう。

 そんななか、スポットライトが当たる機会は少ないものの、着実に成長を続けている選手がいる。

 安井拓也だ。チーム内競争の激しい神戸において、昨シーズン後半戦はほとんどの試合でメンバー入りを果たし、元日の天皇杯決勝でも、アカデミー出身選手として唯一、クラブ史上初タイトル獲得の歓喜をピッチで味わった。

 そのキャリアに大きな変化が見られたのは、プロ3年目の昨シーズンだ。新たにダビド・ビジャや山口、西らが加わったチームにあって、ボランチを主戦場としてきた安井はより熾烈(しれつ)なポジション争いにさらされることになったが、彼はある試合を機に信頼をつかむ。

 5月26日の湘南ベルマーレ戦。リーグ戦7連敗とチームが不振にあえぐなかで迎えた一戦で、後半からピッチ立った安井は攻守に存在感を示し、8試合ぶりの白星に貢献したのだ。

「これまで、試合に起用されなくても『チャンスがきた時にいいプレーができるように毎日を過ごす』と決めて、身体のケアやメンタル的な準備を徹底してきました。それがいかに大事かということを実感できた45分でした。ただ、チームの勝利に貢献するアシストやゴールといった明確な結果は残せなかったことを考えれば、まだまだやらなければいけないことはたくさんある。そのために、また日々の練習から大事にやっていきたい」

苦手だったプレーも楽しめるように

「変化」のきっかけとなったのは、西の存在だ。プライベートでも食事や釣りに出かけるなど、ともに時間を過ごすなかで、考え方やマインドに多くの刺激を受けた。

「アカデミー時代から、日々のトレーニングで良かった点や悪かった点をノートに書き出したりしていましたが、大伍さんといろんな話をするようになって、自分のキャパシティで物事を考えているうちは、人間としての外枠が大きくなっていかないと思うようになった。

 実際、最近は時間が許せばいろんなところに出かけて、いろんな人に会い、話を聞くようになりました。いろんなことに興味が持てるようになれば、サッカーでも周りの人のアドバイスを素直に聞けるようになり、そうなるとサッカーの見方も変わってきて、よりサッカーが楽しくなる。おかげで最近は、かつては苦手だと思っていたプレーでさえ楽しめています」

 その1つが、守備だ。もともとは攻撃的なボランチで、ときに2列目のポジションを任されるのも攻撃センスを評価されてのことだが、最近では相手のカウンターのチャンスを潰したり、インターセプトや縦パスを食い止めるプレーにも喜びを覚え始めたという。

「攻撃的なサッカーをするのはもちろん楽しいけど、それをするからには守備が大事だということを、本質のところで理解できるようになったというか。それによって、要所要所で相手の攻撃の芽をつぶすとか、相手のチャンスになりそうなところでボールを奪って攻撃に転じるプレーがすごく面白くなってきた。そこは今後も突き詰めていきたいし、スペシャルな選手が集うこの環境でプレーできることを自分の力にしながら、もうワンランク上の選手になれるように、もっともっといろんなことを吸収して成長したい」

走れて、さばけて、点を取れる選手

 そんな風に充実の表情を見せる一方で、プロ4年目の今年は目に見える「結果」へのこだわりも強めている。

 特に今シーズンはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を並行して戦うこともあって、トルステン・フィンク監督は開幕前から「総力戦」を明言している。安井にとっては、昨シーズン以上に「自分」をアピールするチャンスと言えるだろう。

「個人的にはスタメン出場と結果にこだわるシーズンにしたい。攻撃ではゴール、アシスト、その前の起点のパスなど、目に見える結果を残しつつ、チームを助ける走りだったり、運動量を生かして守備面でも貢献したい。目指すのは、走れて、さばけて、点を取れる選手。今年もサッカーを楽しみたいと思います」

 背番号は、本人の希望で過去3年間背負った35から14に変更になった。アカデミー時代、最初につけた番号だ。トップチームからアカデミー出身選手が減りつつあるだけに、彼なりに思うところがあるのだろうか。

「僕がジュニアユースの頃、トップで試合に出ていた(小川)慶治朗くんに憧れてプロを目指したように、アカデミーの選手は絶対に先輩選手のことを見ているし、活躍すれば間違いなく刺激になる。それを肌身で感じてきたからこそ、僕も試合に出なければいけないし、出るだけではなく活躍しなければいけない」

 プロを目指すたくさんの後輩たちの視線もまた、安井を走らせる原動力になっている。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

関西一円の『サッカー』を応援しようとJリーグ発足にあわせて発刊された、関西サッカー応援誌『GAM』『KAPPOS』の発行・編集に携わった後、同雑誌の休刊に伴い、1998年からフリーライターに。現在はガンバ大阪、ヴィッセル神戸を中心に取材を展開。イヤーブックやマッチデーブログラムなどクラブのオフィシャル媒体を中心に執筆活動を行なう。選手やスタッフなど『人』にスポットをあてた記事がほとんど。『サッカーダイジェスト』での宇佐美貴史のコラム連載は10年に及び、150回を超えた。兵庫県西宮市生まれ、大阪育ち。現在は神戸在住。

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