連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

C大阪の躍進に不可欠な大型新人の成長 西川潤は不慣れなサイドでも違いを生む

小田尚史

今季の公式戦2試合では出場機会のなかった西川だが、そのずば抜けたサッカーセンスはロティ―ナ監督も高く評価している。この中断期間をプラスに捉え、サイドへの適性を高めたい 【(C)J.LEAGUE】

 特別指定選手だった昨季にJ1デビューを飾り、豊かな才能の片りんをのぞかせた西川潤にとって、プロとして挑む今季はプレーの幅を広げる重要な1年になりそうだ。得意とするセカンドトップやトップ下だけでなく、不慣れなサイドハーフでも結果を残せるか。バルセロナからの関心もうわさされる超逸材の進化は、J1初制覇を目指すセレッソ大阪の躍進に不可欠だ。

キャンプで見せた理解力、修正力の高さ

 今シーズンの始動日でのこと。ゲーム形式の練習で、モンテディオ山形から移籍してきた大卒2年目の坂元達裕とともに右サイドハーフに入ったのが、昨シーズンの特別指定選手を経て、桐光学園高から鳴り物入りで加入した西川潤だった。

 水沼宏太(現横浜F・マリノス)が抜けたこのポジションは、実質2人の競争になり、ロティーナ監督も早くから「どちらかが開幕スタメンをつかむだろう」と明言していた。

 宮崎キャンプでの初の対外試合、テゲバジャーロ宮崎(JFL)との一戦で、西川はボールに触れる機会が少なく、不完全燃焼に終わる。昨年、練習生として宮崎キャンプに参加していた西川は、練習試合で印象的な活躍を見せた。“個”として大いに輝いたのだが、それから1年、チーム戦術が浸透したことで、今シーズンはチームのやり方に合わせて戦術的な役割を果たしつつ、個の良さも発揮していく必要性に迫られている。ずぬけたポテンシャルを秘める西川とはいえ、フィットするまで時間がかかるかに思われた。

 だが、そこはやはり並のルーキーではない。Jリーグの新人研修で一度チームを離れて戻ってきた後のV・ファーレン長崎戦。そこで西川はポジション取りに工夫の跡を見せ、再三フィニッシュに絡むと、40分には小池裕太のクロスにファーサイドから飛び込み、ヘディングでゴールを奪う。理解力、修正力の高さを見せつけた。

 宮崎戦後は傍目にも分かるほど落ち込んでいた西川だが、長崎戦後は「一つひとつの試合を重ねて、自分の良さを出すことを心掛けている。前回の試合はクロスへの入り方が良くなかったと思っていたので、今日は(その形から)点が取れて良かった。味方との連係でも、こう動くだろうな、ということが分かってきたし、試行錯誤している結果がだんだんと良い形につながってきている」と、しっかりとした口調で試合を振り返っている。

指揮官は適応段階であることを強調

 冒頭の競争の行方だが、プレシーズンを通して評価を高めた坂元が、YBCルヴァンカップ(松本山雅FC戦/4-1で勝利)、J1リーグ(大分トリニータ戦/1-0で勝利)ともに開幕スタメンの座をつかみ、公式戦2連勝に貢献。西川についてロティーナ監督は、現在はまだ適応段階であることを強調する。

「彼は昨年まで高校でプレーしていた。高校の試合のリズムとJ1のリズムは大きく違う。われわれが望んでいるモノを彼が知る必要もある。少しずつ適応している。時間が経てば、より成熟していくだろう。潤は素晴らしい技術と能力を持っている。それをより試合の中で、高いインテンシティの中で、できるだけ長い時間発揮することが求められている」

 西川自身、「(開幕スタメンは)狙っていた」と悔しさを胸に秘めつつも、「簡単に出られる世界ではないことも分かっていた。冷静に行動することが大事。練習からブレることなく積極的に取り組んで、全力でやっていく。同じポジションで活躍している選手がいることに悔しい思いはあるし、自分も観察しながら『もっと頑張ろう』という気持ちになる。試合に出た時は最高のパフォーマンスを発揮することを常に考えている」と、自身の置かれた現状を冷静に受け止めていた。

 YBCルヴァンカップのグループステージ第2節・ベガルタ仙台戦に向けた練習後、先発出場が予想されていた西川は、「ここまで練習や練習試合でやってきたことを出したい。まだ今年は公式戦には出ていないけど、常に試合に出る準備はしてきた」と、闘志を燃やしていた。

 しかし周知の通り、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、試合前日に延期が決定。プロとしての公式戦デビューは持ち越された。しかし、思わぬ形で生まれたこの中断期間も西川は、「練習に打ち込める時間。個としても、インナーマッスルを強化していきたい」と前向きに捉えている。

FW起用で増した怖さと存在感

 セレッソ大阪は、中断期間も毎週末に練習試合を行っている。3月に入ってからは非公開が続くが、2月最終週の試合は公開され、西川はいわゆるカップ戦仕様のメンバーで構成された2試合目に、右サイドハーフとして先発した。

 局面を打開するドリブル、スピードに乗った状態のままカットインし、顔を上げた瞬間に放つ矢のようなスルーパスなど持ち味を発揮する場面もあったが、試合に関われていない時間も長かった。それでも途中から2トップの一角に移ると、俄然、怖さと存在感を増す。再び小池のクロスに豪快なボレーで合わせ、ゴールも決めてみせた。

「潤は高校時代、セカンドトップ、トップ下でプレーしていた。今はサイドをやっているが、前でのプレーも見たかったので、今日は少しの時間、試した。良かったと思う。これからも2つのポジションで起用していきたい」と、ロティーナ監督はFW起用の意図を話したが、西川もこれに結果で応え、攻撃の選択肢を広げる武器の1つになり得ることを示した。

 FWと連動しながらのプレス、サイドバックとのマークの受け渡しなど守備でも貢献し、攻撃時はドリブルで長い距離を持ち運び、フィニッシュにも絡むなど、サイドハーフには広範囲に渡るプレーが求められる。一方、2トップの一角ないしトップ下は、よりゴールに近い位置でのプレーが可能だ。もちろん、この位置でも守備のタスクは課されるが、「これまでもずっとやってきたポジションなので、普段どおりの感覚でやれる」(西川)というアドバンテージはある。

 もっとも西川は、「自分に選ぶ権利はない。与えてもらったポジションでしっかりプレーするだけ。(サイドでの負荷は)あることはあるけど、だんだん慣れて、やるべきことも整理され始めている」と、サイドでも強度や精度を高めるべく鍛錬を重ねている。

 リーグ戦が再開された時、西川がピッチでどのようなプレーを見せるか、大いに注目している。昨シーズン、リーグ最少失点を記録した“ロティーナ・セレッソ”が、さらに上を目指すためにテーマとして掲げているのが、攻撃の上積み。将来を嘱望される「背番号49」が描く成長曲線もまた、チームの躍進に欠かせない要素の1つである。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

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