連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

柳下体制4年目の金沢を支える新リーダー 藤村慶太は、例えるなら、“青い炎”だ

村田亘

ベガルタ仙台からの期限付き移籍を経て昨季、完全移籍を果たした藤村。攻守の要であるMFは今季、内に秘めた闘志を燃やし、チームを牽引する 【(C)J.LEAGUE】

 柳下体制4年目、メンバーが大きく入れ替わったチームをけん引するのは、藤村慶太だ。これまでもプレー面では大黒柱だったが、若い選手が増えた今季は、リーダーシップも求められる。柳下正明監督も自覚と責任を促すために開幕戦でキャプテンマークを託したが、藤村自身も変化の必要性を感じているに違いない。

昨季、腕章を巻いたのはたった2試合

 その光景は予想を裏切るものだった。

 ただ、意外だったかと問われれば答えは「ノー」。2020年2月23日、シティライトスタジアム。開幕戦のセレモニーを終え、フェアプレーフラッグ、審判団に続いて入場するツエーゲン金沢の選手たちの先頭を進んでいたのは藤村慶太だった。当然ながらその左腕にはキャプテンマークが巻かれていた。

 この試合、キャプテンの廣井友信は欠場。昨シーズンまでならこの状況でゲームキャプテンを務めるのは白井裕人だった。昨シーズンから副キャプテンを務めている藤村だが、キャプテンマークを巻いたのは2試合のみ。それは廣井も白井も欠場した試合でのことだった。

 開幕戦で藤村にキャプテンマークを託した理由を柳下正明監督に尋ねると、最初は「副キャプテンだからね」とはぐらかされてしまった。

 ただ「もっと責任感を持ってほしいという思いもあるのでは?」と聞いてみると「もちろん」と即答。そして「(藤村は)あまり声を出すタイプではないけれど、自分自身のプレーにもっと責任を持ってほしい。グラウンドの真ん中にいる選手がリーダーシップを発揮できるのがチームとしてベスト。だから、もっと自覚と責任感を持ってほしいというのが一番(の理由)」と明かしてくれた。

まだまだ未成熟な集団の中で

 柳下監督が率いて4シーズン目を迎えた今シーズンの金沢は、継続路線を保ってはいるが、実質は新チームと言っていいほど大きく変わった。柳下体制で複数年在籍していた中堅選手が去り、ルーキーや若手選手が数多く加入したからだ。

 昨シーズンの主力クラス(リーグ戦の総試合時間3780分のうち出場時間が70%以上の選手として計算)のなかで、今季の開幕戦でスタメンを飾ったのは3人のみ。マンツーマン気味の守備を含め、特徴的なスタイルを貫く金沢のサッカーにはただでさえ慣れるのに時間がかかる。

 それに加えて今シーズンは若い選手が多い。柳下監督がキャンプ中の宿舎での雰囲気を「修学旅行」と例えたように、プロとしてはまだまだ未成熟な集団だとも言える。キャンプ終盤には見かねたベテラン選手が中心となってミーティングを行い、「プロ選手とはどうあるべきか」を説いたほどだった。

 藤村はそのときのことをこう振り返る。

「キャンプ中の生活はちょっとガキっぽい感じがあった。チームとしてピリッとしなければいけない。ダラけている部分は上の選手と一緒に正していきたい」

化学反応を起こす存在に

 これまでもプレーの面ではチームの大黒柱だった藤村。守備時には危険なスペースをカバーし、粘り強いマークでボールを奪い取ったかと思えば、攻撃に転じたときにはパスの受け手になってボールを運び、ラストパスを供給。さらにボールキープで時間をつくり、セカンドボールを拾って二次攻撃につなげる。また金沢の得点源のひとつであるセットプレーでもキッカーを務めている。

 当然ながら指揮官からの信頼も厚く、それは昨シーズンにチーム最長の出場時間を記録したことが示している。

 ただし、今シーズンはそういったプレー面に加え、より高次元でチームをけん引していくことが期待されている。腕章を巻いた開幕戦では「チームのために声を出すというのは普段より少し意識してやっていた」と話すなど、藤村自身でも変化の必要性を感じているようだ。

 開幕戦を終えて4週間が過ぎた金沢の練習場では、心なしかランニング時に前に位置する藤村の姿が目につく。たまたまなのかもしれないし、こちらがそう意識して見ているからなのかもしれない。

 ただ、藤村が大きな声でチームを鼓舞し、若手に激しく檄(げき)を飛ばすような「闘将」になることは想像しにくい。本人も「本当にダメだったら(若い選手たちに)指摘するけれど、自分たちで気づくのが一番」と一人ひとりの自覚を促す。

 その行き着く先に見えるリーダー像は、例えるなら、燃え上がる赤い炎ではなく静かに燃え続ける青い炎。激しく燃える赤い炎のほうが熱量を感じさせるが、実のところ高温なのは青い炎であり、その周囲では水も物質も、より早く状態を変化させる。

 藤村が青い炎を灯したリーダーになることで若いチームの化学変化は急速に進むことになる。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1979年生まれ、石川県出身。大学卒業後に編集プロダクションで書籍編集に携わったのちフリーランスに。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』編集部を経て2019年にUターンし、フリーエディター・ライターとして活動している。

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