全能のアタッカーに変貌した阿部浩之 名古屋の多彩な攻撃を司る“発信地”だ
名古屋では、それまであまり経験がなかったトップ下でプレーしている阿部。スルーパスなど新たな武器をレパートリーに加え、新天地で早くも攻撃の核に 【(C)J.LEAGUE】
開幕戦を超えるハイパフォーマンスを
リーグ開幕のベガルタ仙台戦では決して簡単ではないシュートをいとも簡単に決め、素晴らしいパスで決定機を少なくとも二度、演出した。マッシモ・フィッカデンティ監督が「これから私たちがやろうとしていることに、彼は絶対に必要になる」と公言していた人呼んで“優勝請負人”は、再開後にはそうした種々のインパクトを超えるハイパフォーマンスを見せてくれそうな、そんな期待を強く抱かせる。
期待の源は時間にある。
新型コロナウイルスの影響でJリーグの公式戦が中断してしまったのは残念で仕方ないが、YBCルヴァンカップ、リーグの初戦をそれぞれ勝利、アウェーでの引き分けと、悪くない結果で終えたチームにネガティブな印象はなく、選手たちにしてみればこのまま勢いに乗って勝ち進みたかったことだろう。それでも良好な状態でトレーニングのみの日々に突入した名古屋は、ひたすらに良いイメージの下に自分たちを鍛錬することができている。
阿部も例外ではなく、例えば沖縄での二次キャンプでは「まだみんながどんな動きをするのか分からないから、全部“見て”プレーしているので、遅い。もっと分かってくれば『ここにいるだろう』でプレーできる」と話していた連係面について、「まだまだもっとつかまないと」と言いつつも、手応えを感じている。
「自分のこともみんな分かってくれてきていると思う。ある程度はお互いにもつかめてきましたけど、この先はもっともっと細かいところにこだわるなら、というところですからね。もっと精度を上げられたらなと。まだ何も考えずに合わせられてはいないので、それではテンポが2つ、3つは遅くなってしまう。そういうのはやっぱりね、ゴール前なら一瞬でカバーされてしまうこともあるので。まだまだ頭で考えてやっている」
中村憲剛の偉大さを感じながら
同じ新加入のセンターフォワード、山崎凌吾にスルーパスを通したと思えば、シャビエルと小気味よいパス交換を重ねて相手を翻弄(ほんろう)する。自らもシュートを撃ちながら、味方の動き出しは見逃さない。
それまでサイドアタッカーというイメージが強かった阿部だが、名古屋ではパサーとしての顔も持つようになった。「毎日、(中村)憲剛さんの偉大さを感じてやってます。憲剛さんならどう考えるやろな、と」
トップ下のポジションを与えられ、攻撃を自在に操るなかで、豊富な前線のタレントを生かすスルーパスやフィードは、彼の新たな武器として確立されつつある。
影響力の大きさは中断前の比ではない
仙台戦ではチームトップの12.279キロの走行距離をたたき出したが、「やりながら上げていくタイプなので」と開幕時点ではむしろキャンプの疲労を引きずっていた。しかしこの中断期間中は、トレーニングを積みながらも程よく休養を取れているのか、最近は運動量だけでなく身体のキレも出てきた印象だ。
「真ん中の選手なので」とボールの受け手として動き直しを繰り返し、攻撃を加速させるパスを送る。さらに自分もフィニッシュにかかわる頻度が増していけば、鬼に金棒どころの話ではない。
チームは今季、ハイプレスも守り方の一手段として備えるが、そのファーストディフェンダーとしても阿部は積極的な姿勢を見せている。自らを「勝ちに特化した選手」と言い切る男は、プレーでそれを体現し続けている。
残念な公式戦延期による中断期間も、名古屋と阿部にとっては“熟成期間”として有効に使えているのかもしれない。ここまで1カ月以上かけて築いてきたチームのオートマティズムが確立されていくに従い、今季の名古屋が掲げる縦に速い攻撃には、さらなるスピードに、意外性や面白さといったスパイスも加わりつつある。
もちろんその発信地には、より仕事の幅を広げ、全能のアタッカーとなった阿部浩之がいる。その影響力の大きさ、プレーの精度と効果の高さは、中断前の比ではない。
(企画構成:YOJI-GEN)
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