連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

ケガを克服し、SBとして新境地を開拓 石毛秀樹は新生・清水を象徴する存在だ

平柳麻衣

新生・清水を象徴する石毛秀樹。どんな困難にも屈しない男が、新しいSB像を体現する 【(C)J.LEAGUE】

 ピーター・クラモフスキー新監督を迎えた清水エスパルスは公式戦で2連敗を喫した。だが、ネガティブな内容だったわけではない。ユニットで崩し、あらゆる得点パターンを生み出すという新監督の狙いが早くも見えているのだ。そのカギを握るのは、左サイドバック(SB)にコンバートされた石毛秀樹だ。どんな困難にも屈しない男が、新しいSB像を体現する。

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川崎戦のゴールは新生・清水が目指す形

「N(なぜ)S(そこに)I(石毛)」

 まさか初陣からこのフレーズが飛び出すことになるとは――。

 YBCルヴァンカップ・グループステージ第1節(2月16日)、清水エスパルスは川崎フロンターレに1-5の大敗を喫し、シーズン最初の公式戦で黒星スタートを切った。

 スコアだけを見れば、ピーター・クラモフスキー新監督の船出に暗雲が立ち込めた、と捉えられかねない。しかし、この日生まれた唯一の得点こそ新生・清水の進む道筋を示していた。

 67分、西村恭史と中村慶太が右サイドで細かくパスをつなぎ、中村が最終ラインの裏に抜け出す。ワンタッチでふわりと上げたクロスに頭で合わせたのは、左SBの石毛だった。鋭いゴール嗅覚を発揮し、ペナルティーエリアの中央までスルスルと上がっていたのだ。立田悠悟が「これから自分たちがどのようなサッカーをしていくのかを示せた1点」と振り返ったように、ユニットで崩し、あらゆる得点パターンを生み出していくという新監督の方針を早速表すことができた。

SBをこなすうえでヒントになった“ある感覚”

 本来、サイドハーフやトップ下などの攻撃的なポジションを主戦場とする石毛が左SBとして指揮官の信頼を勝ち取った背景には、“ある感覚”がひとつのヒントになっている。それは、昨シーズンまでチームメートだった水谷拓磨(現AC長野パルセイロ)のプレーだ。元々は中盤の選手である水谷がSBに入り、サイドハーフの石毛と左サイドで縦のコンビを形成したとき、「すごくプレーしやすかった」ことを鮮明に記憶している。

「従来のSBは、サイドラインを踏むぐらいまで開くのがスタンダードだったけど、自分としては『果たして、それが正解なのかな?』と思っていたところがあって。でも、拓磨がSBに入ったときは違った。拓磨はあまり開きすぎず、センターバックとサイドハーフの間にスッて顔を出してくれるから、そのおかげで一個一個のパスが短くなって相手がプレスをかけづらくなり、ボールを受けるのがすごく楽になった」

 その時の感覚を頼りに、さらには持ち前の攻撃センスを生かしながら、石毛はスペースを見つけては縦横無尽にピッチを駆け回る。「自分としては、SBをやっている感覚はない。インサイドハーフみたいな感じ」でグイグイと攻撃に参加する石毛のプレーを、指揮官はもちろんのこと、チームメートも歓迎している。

 トップ下に入ることが多い後藤優介は、「たくさん動いてもらえると、逆に自分が動くスペースができたり、マークが外れたりするのですごくやりやすい」と話す。川崎戦の得点シーン然り、「自分が“ここだ”と思ったタイミングで動けば、周りの選手が見逃さずにボールを出してくれる」と、石毛の動き出しに連鎖するようにパスが回る。

 3月17日に行われた藤枝MYFCとの練習試合でも、ダイナミックな攻撃参加は迫力を増していた。ある場面ではドリブルで中央に運び、一旦、右SBの奥井諒に預けて最終ラインの裏までダッシュ。奥井が出した浮き球のパスには惜しくも足が届かなかったものの、あと一歩でビッグチャンスにつながるところだった。

 石毛は、「自分が上がった時、周りがちゃんとスペースを埋めてくれると分かっているから、勢いよく前に入っていける。信頼関係はだいぶ築けてきた」と自信をのぞかせる。

神様から贈られたご褒美と"愛娘との入場”

 課題であった守備面にも、改善の兆しが見えてきている。当初は「ディフェンスラインを合わせることにまだ慣れなくて、難しい」と苦戦していた。だが、隣り合うセンターバックの立田と積極的にコミュニケーションを取ることで、「ラインがボコボコすることも減ってきた」と連係を深めている。

 藤枝戦はスコアレスで引き分け、練習試合も含めた今シーズンの対外試合における初完封を達成。立田は「俺も石毛くんもよく声を出すタイプなので、試合中に修正できることは大きい。2人の間を抜かれるシーンはなくなってきている」と手応えを口にした。

 昨年4月に全治約8カ月の大ケガを負い、“復活”を掲げて幕を開けた今シーズン。川崎戦でのゴールは、長いリハビリ生活を乗り越えた彼に、サッカーの神様が贈ったご褒美のようだった。

「つらいところを見せないのが石毛くん芯の強さ。僕らはリハビリしてる姿をずっと近くで見てきたので、また一緒にプレーできることがすごくうれしい」という立田の言葉は、石毛の苦労を側で見守り続けたチームメートの総意だろう。FC東京とのリーグ開幕戦では、「復帰したら絶対にやりたかった」とリハビリ中のモチベーションにしてきた“愛娘との入場”の夢も叶えた。

 どんな困難にも挫けない彼のポジティブな精神は、いつだってチームに希望の光をもたらしてくれる。「もう、『なぜそこに石毛?』と思われないぐらい、もっとたくさん点を取りたい」。そう語る彼が「楽しい」と感じるがままにプレーすれば、自ずと観客を魅了するサッカーが体現できているはずだ。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1992年生まれ、静岡県出身。静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。『サッカーキング』や『S-PULSE NEWS』などに寄稿する。

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