連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

苦難を乗り越え、強くなった松原健 連覇を狙う横浜FMで不可欠な男に

藤井雅彦

今季の松原には、昨季終盤戦の好調を持ち込みフル稼働が期待される。右サイドで縦に並ぶ仲川とのコンビネーションプレーは、横浜FMの大きな武器だ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 サイドバックらしからぬ攻撃センスを持ち、横浜F・マリノスの強力アタックの一翼を担う松原健。昨季は終盤戦に盛り返したとはいえ、一時はレギュラーの座を失い、ケガにも見舞われた。だが、そうした苦しい時期を乗り越え、彼はひと回り大きく、そして強くなった。今季こそは連覇を目指すチームにあって不可欠な存在になるはずだ。

アドバイスをもらう側から与える側に

 プロサッカー選手の27歳と言えば、中堅とベテランの中間地点か。実績も経験値もチームの上位グループに入ってくる頃で、いわゆる脂が乗ってくる時期だ。

 リーグ開幕直前の2月16日に27歳の誕生日を迎えた松原健は、横浜F・マリノスで過ごす4シーズン目を強い自覚とともにスタートした。

「27歳になったばかりだけど、学年としては28歳の代(1992年4月2日から93年4月1日生まれまで)マリノスで言えばチーム内で上から数えた方が圧倒的に早い年齢になったという自覚を持って過ごさないといけない。自分のことだけでなくチーム全体を見ないといけない年齢になりました」

 有言実行の姿勢は始動日直後の石垣島キャンプから見て取れた。

 ピッチ内外でチームメートと積極的にコミュニケーションを取っていく。多くの場合が自身より年下の選手で、アドバイスをもらう側から与える側に変わった。そんな立ち位置に違和感を覚えつつも、意欲的に取り組もうとしていた。

 状況の変化は、言葉だけで終わらないように自身の襟を正す意味合いもあったようだ。

「今年のキャンプインはすごく順調。去年のキャンプインのときは太り過ぎていた(苦笑)。今年はその反省を生かしてオフもコンスタントに走って、筋トレもやっていました。そのおかげで体重は2〜3キロ絞れていて、まったく違います」

 茶目っ気たっぷりに笑っていたが、新シーズンに向けて並々ならぬ気合いだったのは間違いない。

昨季の自分に満足感は一切ない

 昨季、横浜FMは15年ぶりにJ1優勝を成し遂げた。アンジェ・ポステコグルー監督が提唱する『アタッキングフットボール』でリーグ最多68得点を挙げ、右サイドバックを務める松原も攻撃に厚みを加える存在として一役買った。

 MVPと得点王に輝いた仲川輝人と良好な関係を築き、バイタルエリアに侵入してからの鋭利なスルーパスで得点を演出。サイドバックらしからぬ鋭いラストパスは、対戦相手をおおいに苦しめた。

 しかし満足感は一切、ない。

 ラスト9試合に連続して先発。アシストや得点でチームに貢献したとはいえ、開幕スタメンの座を広瀬陸斗(現・鹿島アントラーズ)に譲り、シーズン全体では14試合の出場にとどまった。負傷離脱というアクシデントも重なり、横浜FMの一員になってから最も低い水準に終わった個人成績に納得していない。

 こうして迎えた新シーズン、チームは富士ゼロックス・スーパーカップでヴィッセル神戸と対戦し、PK戦の末に敗れ黒星スタートとなった。

 前半はチーム、そして松原自身もミスが目立ったが、後半に入ってから持ち直す。神戸戦の反省を生かしたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)初戦の全北現代戦では、キックオフと同時にフルスロットルでKリーグ王者を圧倒した。

「ゼロックス・スーパーカップの神戸戦は前半ナーバスになってしまったけど、後半に気持ちを切り替えて修正できた。ACLでは全北現代戦、そしてシドニーFC戦としっかり自分たちを表現できたので、気持ちの切り替えのところでメンタルも強くなっていると思います」

 嫌な流れを断ち切り、自分たちのリズムでサッカーを展開する。課題とされていたパフォーマンスの波を小さくすることで、チームが理想に掲げる「相手を圧倒する(松原)」時間を増やしていく。

気持ちを切り替える大切さを学んだ

 J1リーグ開幕戦ではガンバ大阪に1-2と惜敗した。対戦相手のモチベーションの高さと対策に後手に回り、前半に2失点。後半に巻き返したものの、劣勢をはね返すには至らなかった。

 松原も悔しい敗戦に唇をかんだが、下を向くことはない。それどころか、残り33試合に向けて決意を新たにしたようだ。

「去年は去年で終わったこと。リーグチャンピオンになれたことは自信になっているけど、今年はまたフラットな状態でスタートする。優勝したことを意識して戦うのではなく、目の前の1試合の勝利に執着して、勝ち点3を積み上げていきたい。いろいろなことが起きると思うけど、その中でも自分たちのサッカーをどれだけできるか。それが僕たちにとっての永遠の課題」

 苦難を乗り越えて手にしたポジションと優勝は、松原をひと回り大きく成長させた。

「ミスやうまくいかない時期は誰にでもある。それでも下を向かずに気持ちを切り替える大切さを去年学びました」

 強くなった背番号27は今季も、いや今季こそは欠かせない存在となって、連覇を目指す横浜FMに貢献していくはずだ。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、フリーとして活動を開始。2006年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の横浜F・マリノス担当を務め、現在はwebマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』の責任編集としてチームに密着し続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』(ワニブックス)、書籍の執筆・構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』(ワニブックス)、『サッカー・J2論』(ワニブックス)がある。

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