連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

FC東京の未来を担う長身ストライカー 原大智は“開花を待ち、膨らむつぼみ”だ

馬場康平

昨季、J3得点王に輝いた原。今季の初陣となったACLのプレーオフではスタメンに抜擢(ばってき)された 【(C)J.LEAGUE】

 苦悩や挫折を乗り越えてきた男は強い。原大智はまさに、そうした選手だろう。高校時代には多くの不安にさいなまれたが、それを乗り越え栄冠をつかみ取った。その成功体験が今の原を形作っているに違いない。不断の努力によって成長し続ける青年は、はたしてどのような選手へと変貌を遂げるのだろうか。

多感な時期に自らと向き合った過去

 誰かの心を動かす熱を持っている。それは、ひとつの才能だ。

 午後、誰もいない小平グラウンドに袋いっぱいのボールを持ち込み、ゴールに向かってシュートを打ち続ける原大智を見つけたのは2年前の話だ。そこに、やがてふたつの影が加わる。平岡翼(現栃木SC)がともに汗を流し、安間貴義コーチがトレーニングのサポートに入った。

 トップチーム昇格を果たした直後から始まった、この居残り練習は「このままじゃいけない」という思いに駆られたからだという。FC東京はどのポジションも層が厚く、競争を勝ち抜くのは容易ではない。多くの若手は、雌伏のときを過ごす。その日々をどう送るのか。ときには休日を返上してでも、その濃度にこだわってきた。

「自分はひたすら成長するだけ。でも、腐らずにやれているのはJ1で得点を入れるため。トレーニングは楽しんでできている」

 原にとって、いまに始まったことではないのかもしれない。高校時代、急激に身長が伸びた。それによって、それまでできていたプレーとの齟齬(そご)が生じるようになる。さらに、追い打ちをかけるようにけい骨を折り、初めての長期離脱も経験した。

 そうした不安を飼い慣らし、イメージ通りに体を動かせるようになるまでは時間が必要だった。多感な時期に自らと向き合う日々を過ごし、高3の夏に日本クラブユース選手権で得点王に輝いて優勝の原動力となっている。

 その成功体験が、原をトレーニングに没頭させる一番の理由なのだろう。

「練習や試合でもうまくいかないときは矢印が外に向きがちになる。だけど、そういうときは自分自身に言い聞かせている。答えは自分の中にあるので」

スタッフに制止されるほどの練習量

 昨年からは、練習前の朝練へと形を変えた。誰よりも早くクラブハウスにやってきて、黙々とシュート練習を繰り返した。そうした不断の努力によって、昨季はJ3で得点を量産。最終的には19得点を挙げてJ3得点王にも輝いた。

 アカデミー時代から斜めの動き出しで最終ラインの背後を突くプレーを得意としてきた。そこに「いろんな形で得点を取れれば大きい」と反復練習で身につけたシュートのバリエーションと、長身を生かした高さも加わり、プレーの幅を大きく広げた。それを証明して見せたが、原本人はまだまだ空腹のままだ。

「練習から意識してきたことや、自主トレで体に染み込ませたことを出せるようになってきた。もっともっと決められるように練習したい」

 それは今季開幕前の沖縄キャンプでも明らかだった。見かねた周りのスタッフが制止するほど、全体練習後の自主トレに打ち込んできた。その猛アピールは、長谷川健太監督の目にも止まった。主力組での出場時間も徐々に増え、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフでは先発にも抜てきされた。

「今年、最も旬な選手になりたい」

 しかし、今季はレアンドロ、アダイウトンの加入で、FWの定位置争いはさらに激化。永井謙佑らケガ人が戻ってくれば、ベンチ入り争いも熾烈(しれつ)を極めるだろう。東京五輪出場を目指すプロ3年目は、それでも「まだまだ新しい発見はある」と言ってこう続けた。

「チャンスを信じて今年、最も旬な選手になりたい」

 なくならない不安は次なる成長の糧としてきた。常態化する焦りは、目指す場所があるから。温厚だが、ふいに放つひと言にはストライカーの覚悟が込められる。彼が吐き出した言葉の中で、ゾクッとしたのがこのフレーズだった。

「周りが想像すらつかないところを、僕は目指している」

 ここに開花のときを待ち、膨らむつぼみがある。少しばかり時間は掛かるかもしれないが、どんな花を咲かせるのか――。原の成長過程に、興味は尽きない。可能性という名の大志に真っ向から挑む青臭くも、真っすぐな姿に、僕も心を動かされたひとりだからだ。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、『東京中日スポーツ』等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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