連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

本来の泥臭さを取り戻した古林将太 その推進力で湘南を「前進」させる

隈元大吾

少年時代から在籍した愛着あるクラブに帰ってきて2年。怪我の癒えた古林が再開後にどんなパフォーマンスを見せるか楽しみだ 【(C)J.LEAGUE】

 昨季終盤に負った怪我が癒えず、開幕に間に合わなかった古林将太がこの中断期間中にチームに戻ってきた。現在は公式戦が再開される日を見据え、少しでもコンディションを上げようと日々トレーニングに励む。湘南ベルマーレの今季のスローガンは「プログレッション(前進)」。本来の泥臭さを取り戻し、右サイドを精力的に駆けるこのMFの推進力が、文字通りチームを前進させる。

落ち着いた言動の背景には昨季の経験が

 残留争いにのみ込まれた昨季終盤、古林将太は徳島ヴォルティスとのJ1参入プレーオフ決定戦を前に負傷離脱した。その徳島戦でJ1残留が決まり、松葉杖姿で仲間と喜びを分かち合うと、古林は以降、復帰を目指してリハビリに取り組んだ。チームに完全合流したのは、新型コロナウイルスの影響で公式戦が延期となったこの中断期間中のことだ。

「大変な事態ですけど、怪我明けの自分としてはこの時間にできるだけコンディションを上げていきたいと思っている」

 古林は率直に口にする。

「いつ始まるか分からないですけど、チームも今やれることをしっかりとやっている。第2の開幕に向けて、中断期間をいい意味で捉えてやっていくしかないと思います」

 負傷により、今季は開幕に間に合わなかった。現在もピッチに帰ってきたとはいえ、およそ3カ月に及んだブランクの影響がないはずはない。だが、それでも言動に落ち着きが感じられる背景には、昨季の経験があるようだ。

 移籍を経て4シーズンぶりに湘南に復帰した昨季は、後半戦こそコンスタントに出場し、チームのJ1残留に大きく貢献したものの、シーズン序盤は気持ちばかりが先走り、コンディションが上がらず苦しんだ。

 昨季の苦い記憶をひも解きながら、古林は現在の心境をこんなふうに語る。

「去年は夏前ぐらいまでずっと空回りしていた。そうなってはいけないと自分なりに学びました。開幕に出遅れて焦らない選手なんていないと思うけど、自分のなかでいい意味で抑えて、落ち着いてやっていけばいい。アピールするのではなく、本来の自分らしく泥臭いプレーができればいいかなと思っています」

サイドは難しいけど楽しいポジション

 昨季終盤にチームのタクトを引き継いだ浮嶋敏監督の下、湘南は今季「プログレッション(前進)」をスローガンに掲げ、新たな取り組みに挑んでいる。これまでに培ったハイプレスや縦に速い攻撃的なスタイルはそのままに、カウンターが利かないシチュエーションでの遅攻の質の向上に励んでいるのだ。

 果たして攻撃の幅は広がり、プレシーズンの練習試合を含めて、つくり出したチャンスの数は少なくない。古林は言う。

「前に速いベルマーレ本来の戦いに、ボールを大事に運ぶプレーなどを上積みしている。かといって遅いプレーをやっているわけではない。ハイスピードのなかでボールを失くさずにプレーするのはなかなか難しいですけど、去年もそれはやっていたし、変わらずに突き詰めていきたい」

 相手を凌駕(りょうが)する走力や球際の厳しさ、攻守の素早い切り替えなど、クラブとして大切にする土台は揺るがない。古林が主戦場とする右サイドも、積極的な仕掛けや背後を突く動きで先手を奪い、かたや相手に攻め込まれた際には素早く自陣へ戻るなど、責任感に裏打ちされたハードワークをもってインテンシティの高いサッカーを支えている。

「めちゃめちゃきついですよ」。舌を出すように苦笑いを浮かべつつ、しかし朗らかな表情には充実感が漂う。

「攻撃では前に飛び出して行くし、守備は粘り強く、相手に走り負けしない。サイドは難しいですけど楽しいポジション。練習して90分しっかり戦える体づくりをしていければと思います」

古林の推進力はチームの前進に欠かせない

 公式戦の再開は再び延期となり、リーグの開催は早くとも5月まで待つことになりそうだ。いまだ先行きが不透明な難しい状況にあるが、彼らはトレーニングをはじめ練習試合やミーティングを通じて課題と向き合い、コミュニケーションを深めて、自分たちの目指す戦いを磨いている。

 「第2の開幕」を見据え、古林は言う。

「公式戦が再開したときに自分が出られるか分からないですけど、しっかりコンディションを上げて準備したい」

 たしかに、再開後すぐにピッチに立てるかどうかは分からない。ただ、攻守に渡るその得難い推進力がチームの前進に欠かせないことは間違いない。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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