連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

山形に欠かせない“サッカーコミュ力” 山岸祐也はピリピリした空気に飢えている

頼野亜唯子

昨季途中の加入で救世主的な活躍を見せた山岸。2年目の今季はゴールに絡むプレーとともに、そのコミュニケーション能力の高さでもチームにプラスの効果をもたらしたい 【(C)J.LEAGUE】

 途中加入後の4カ月で公式戦5ゴール・4アシスト。昨季終盤、沈みかけたチームを昇格プレーオフへと導いたのが、山岸祐也だった。今季、石丸清隆新監督の下で新たなスタートを切ったモンテディオ山形の浮沈の鍵を握るのは、勝負強さとコミュニケーション能力の高さが魅力の、この2年目のアタッカーに違いない。

圧巻だった昨季41節のハットトリック

 山岸がFC岐阜から山形に加入したのは、昨年8月の初めだった。

 7月半ばにエースの阪野豊史が松本山雅FCに移籍した影響もあり、前半戦を首位で折り返したチームの勢いに陰りが見え始めていたこの時期、攻撃の質を上げるカンフル剤として、強化部が白羽の矢を立てたのが山岸だった。そこからJ1昇格プレーオフ2回戦でシーズンを終えるまでわずか4カ月。その間に、まさかあれだけの目に見える結果と鮮烈な印象を残すとは、想像もつかなかった。

 山形サポーターの心を最初にわしづかみにしたのは、加入から1カ月後のJ2・31節。首位を独走する柏レイソルに挑んだアウェーゲームだった。山岸は、移籍後初先発となったこの試合で1ゴール、1アシストの活躍。チームも4-3で勝利を収め、順位を6位から4位に上げた。

 そしてこれ以降、山岸はコンスタントに先発メンバーに名を連ね、アシストを連発する。移籍当時、山形に旧知の選手はほとんどいなかったにもかかわらず、もう何年も一緒にプレーしているかのように、大槻周平や坂元達裕(現セレッソ大阪)の動きに合わせてパスを供給し、ゴールを演出してみせた。

 圧巻だったのは、41節のレノファ山口戦である。リーグ終盤を迎えてもなんとか2位をキープしていた山形だったが、39節の水戸ホーリーホック戦、40節のV・ファーレン長崎戦に連敗。この山口戦は、負ければプレーオフ圏内からも脱落する可能性のある重要な一戦だった。

 ところが、プレッシャーからか動きの硬い山形は、前半だけで2失点を喫してしまう。万事休すかと思われたが、迎えた後半、シャドーからトップにポジションを変えた山岸が大爆発。なんとハットトリックをマークして試合をひっくり返したのだ(3-2で勝利)。

重圧の中で良いプレーをしてこそ

 J1昇格プレーオフ1回戦(対大宮アルディージャ戦)で挙げた1ゴールを含め、移籍後の4カ月で5ゴール・4アシスト。2年目の今シーズン、フル稼働すればいったいどれだけの結果を残してくれるのか、おのずと期待は膨らむ。そしておそらく、少々過大に思えるほどの期待をかけられることも、山岸には望むところに違いないのだ。

「プレッシャーがない中で良いプレーができても意味がない。プレッシャーの中で良いプレーができてこそ実力だし、もっと成長していける」

 山岸は、ことあるごとにそう口にする。昨シーズン、昇格プレーオフ2回戦で徳島ヴォルティスに敗れ、J1昇格の夢が潰えた直後でさえも、山形に来てからの数カ月を「楽しかった」と振り返った。ピリピリとした空気の中で戦う一つ一つの試合こそが、自分を成長させる糧であることを知っている。

 そしてもうひとつ、今シーズンの山岸に期待するのは、彼の持つ無類の“サッカーコミュ力”だ。先述したように、山岸は昨夏、移籍してすぐにチームにフィットした。それは、周りの選手の特徴を把握する観察眼の高さがあったからだろう。

「自分はひとりでドリブルしてゴールまで持っていくようなタイプではないから、自分も相手を生かすし、自分も生かしてほしい。だから、相手がどういうパスをもらったらシュートを打ちやすいだろうとか、そういうことは結構考えている」

 加えて、陽気でおしゃべりで人見知りしない性格。誰が相手でも思ったことは言葉にして、お互いの理解を深める作業をいとわない。監督が代わり、数多くの新戦力も加入した今シーズンの山形で、石丸新監督の目指すサッカーをチームに浸透させ、共有していくうえで、山岸のコミュ力が意外に大きな役割を果たすのではないかと感じている。

東日本大震災を経験して知ったこと

 石丸新体制の初陣となった開幕戦は、ジュビロ磐田に0-2で敗れた。思いがけない中断期間は、戦術の浸透や新加入選手の融合のためにはプラスに働いているとも言えるが、山岸はやはりピリピリとした公式戦に飢えている。

「毎週末にあった試合がなくて、練習も非公開でサポーターと会う機会もないし、寂しいですね。早くスタジアムで、大勢の人の前で試合がしたいという気持ちがすごく強いです」

 まったく状況は異なるが、山岸には過去にも一度、当たり前にあった「サッカーのある日常」を失った経験がある。

 東日本大震災が起こった9年前、山岸は尚志高(福島県郡山市)の2年生だった。津波の被害にこそ遭わなかったものの、原発事故の影響で福島を離れざるを得ず、ふたたび同じチームでサッカーができるのかさえ不透明だった。そんな不安の中でもサッカーを続け、尚志高3年時の高校選手権ではベスト4入りを果たした。

 当時、福島県の人たちから学校に、「勇気をもらった」「感動した」といった声が相次いで届き、山岸は自分が必死にサッカーを頑張ることで、誰かを笑顔にできることを知った。

 どんなときでも「今、自分にできることを少しでもやる」。それがどれだけ後につながるかも知っている。そして、注目度の高い試合になればなるほど勝負強さを発揮するのが山岸だ。再開したJリーグのピッチに立つ彼が、試合を待ちわびたサポーターの前で解き放たれる。そのときが待ち遠しい。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

栃木県出身、仙台市在住。東北大文学部卒業後、広告代理店などでの勤務を経てコピーライターとして独立。並行して2006年からサッカー取材に足を踏み入れ、モンテディオ山形を中心に取材・執筆を続けている。山形のホームゲームで行なわれる将棋×サッカーコラボイベントではMCを担当する“観る将棋ファン”。山形番フリーライター3人によるウェブマガジン『Dio-maga』に参加。

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