連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

大幅に入れ替わったチームを支える男 安東輝が今季、水戸の中盤で輝きを放つ

佐藤拓也

松本から期限付き移籍した安東。「チームを勝たせる男になりたい」と水戸をけん引する覚悟を見せる 【(C)J.LEAGUE】

 昨シーズン7位の好成績を収めながら、またしても主力の多くを引き抜かれてしまった水戸ホーリーホック。なかでもチームの“心臓部”を誰が担うかは、最大の懸案事項だった。だが、その不安は早くも開幕戦で払拭(ふっしょく)された。安東輝が中心的な役割を果たしたからだ。

今季も主力が引き抜かれたなかで…

 開幕前、今シーズンの水戸ホーリーホックに対し、不安視する声は少なくなかった。

 昨シーズン7位という過去最高の結果を残しながらも、主力の多くが引き抜かれてしまったからだ。リーグ最少レベルの強化費で運営するチームの宿命に、今シーズンも直面。登録29選手中16名が新加入と、昨シーズンとはまったく異なるチームと言っても過言ではない編成を強いられた。

 なかでもチームの心臓として2年間中盤を支えた前寛之(現アビスパ福岡)が移籍した穴をいかに埋めるかは、今シーズンの大きなテーマのひとつだった。

 だが、大宮アルディージャとのJ2リーグ開幕戦は「シュート数もチャンスの数もボール支配率も相手を上回った」と秋葉忠宏監督が振り返ったように、多くの時間帯で主導権を握って試合を進めることができていた。

 勝負強さを欠き、1-2の敗戦を喫したものの、内容においては今後に向けて大きな可能性を感じさせるものであった。

 この試合でチームの中心として存在感を発揮したのが、ボランチとしてプレーした安東輝であった。今シーズン、松本山雅FCから期限付きで加入。プロ入り7年目を迎える安東はJ3では通算58試合の出場記録があるものの、J2とJ1で1年を通して主力としてプレーした経験はなく、昨シーズンも松本でJ1リーグ8試合の出場に終わっている。

 10代の頃は年代別の日本代表に選出されるなど将来を嘱望されていたが、プロの舞台で力を発揮できずにいた。そして今シーズン、自らのポテンシャルを証明するために水戸にやってきた。

懸案だった“穴”を埋める働き

 開幕戦で見せた安東のパフォーマンスはまるで前を彷彿(ほうふつ)とさせるものであった。中盤の幅広いエリアをカバーし、ボール奪取を連発。徹底的に攻撃の芽を摘み、大宮にほとんど攻撃の形を作らせなかった。そして、ボールを持つと的確にさばいて攻撃のリズムを作り出していた。

 最も大きいと思われていた“前の抜けた穴”を初戦で埋められる見通しがついたことこそ、不安を払拭できた最たる理由だ。安東を中心にチームは流動的な動きを見せて、昨季3位の大宮を終始翻弄(ほんろう)してみせた。

「結果はついて来なかったですが、全然悲観するような内容ではなかった。自分たちがやりたいようなことをやれた時間が多かった。それをどんどん続けていく。結果を出すことは重要ですが、出なくても自信を持つこと。僕らに必要なのはそういうところかなと思います」と安東も自信をのぞかせた。

 同時に、自分に足りないものも明確に見えた。中盤でゲームを組み立てた安東だったが、最終的にチームに勝利をもたらすことはできなかった。

「テクニックや戦術理解度はJリーグの中でも低いレベルではないと思っています。でも、一番足りないのは自覚というか、チームを勝たせる責任を背負うような行動やプレー。そういう面が自分にとっての課題。だから、昨季まで公式戦に出られなかったんだと思います。この1年で一皮むけるというか、自分が引っ張って、自分がチームを勝たせる選手になりたいし、そういう男になりたい」

 チームの勝利に貢献することによって、自らの存在意義を示してみせる。開幕戦を経て、改めてその思いを強くした。

「アイツより愛されるようになりたい」

 また、前の「穴埋め」で終わる気もさらさらない。安東は中学・高校ではJFAアカデミーに所属。コンサドーレ札幌アカデミーに所属していた前とは中学時代から何度も対戦してきたという。

「前は中学時代からよく知っている選手。昨季まで水戸で活躍していたことは知っていましたし、プレーのイメージもあります。僕と似ているタイプの選手だとは思いますね」と前について語る安東。そして、こう続けた。

「アイツよりいい働きをして、アイツより(サポーターから)愛されるようになりたい」

 開幕戦のプレーはあくまでベース。この中断期間中に連係面に磨きをかけることによって、さらなる存在感を発揮することだろう。今季、水戸の中盤で安東が輝き続ける。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1977年7月30日生まれ。横浜市出身。青山学院大学卒業後、一般企業に就職するも、1年で退社。ライターを目指すために日本ジャーナリスト専門学校に入学。卒業後に横浜FCのオフィシャルライターとして活動を始め、2004年秋にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターとなる。現在は『EL GOLAZO』『J’s GOAL』で水戸ホーリーホックの担当ライターとして活動。2012年から有料webサイト『デイリーホーリーホック』のメインライターを務める。

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