絶大なる影響力を誇る唯一無二の存在 江坂任には柏の“二枚看板”も一目置く
オルンガとクリスティアーノの破壊力を引き出しながら、みずからも貴重なゴールを奪う。柏の前線に絶対不可欠な存在となった江坂は「チームを勝たせる男」だ 【(C)J.LEAGUE】
高度なテクニックで単調な攻撃に変化を
このオルンガ、そしてクリスティアーノと、柏では2人の強力な外国籍アタッカーの存在がひときわ目を引く。たしかに彼らは、圧倒的な個の力を持つ柏の“二枚看板”だ。J2優勝を成し遂げた昨シーズンも、オルンガが27得点、クリスティアーノが19得点・18アシストと、いずれもMVP級のパフォーマンスを披露している。
ただ、彼らがゴールを量産できるのも、トップ下の位置から攻撃に変化を与えるこの男がいるからだろう。柏の背番号10、江坂任である。
オルンガとクリスティアーノが相手ディフェンスの背後を狙うプレーを得意にしているのに対し、江坂はゾーンの間に生じるわずかなスペースを支配し、狭いエリアでボールを収められる高度なテクニックが魅力だ。
いくら助っ人コンビが強力とはいえ、背後狙いの攻撃だけを繰り返していては、リズムが単調になってしまう。だが、相手にとって危険なエリアで江坂がパスを受け、前を向くからこそ、攻撃に変化と彩りが加えられる。つまり、オルンガとクリスティアーノの背後を取る動きが、江坂が間を取ることによってさらに引き立つのだ。
ターニングポイントの一戦で起死回生弾
もちろん、ネルシーニョ監督の志向するスタイルがまだチームに浸透しておらず、戦い方が定まっていなかったことも影響していただろう。しかし、開幕前の負傷によって江坂が出遅れ、スタメンに定着できなかったことも、攻撃にリズムが生まれない原因のひとつだった。
その後、18節のアビスパ福岡戦で、江坂は4試合ぶりに先発出場。福岡の1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、江坂の起死回生の同点ヘッドが決まり、柏は辛くも勝ち点1をたぐり寄せた。選手たちはこの試合でネルシーニョ監督が要求するスタンダートをつかみ取り、さらに最後の最後で追いついたというポジティブな結果が、それまで調子の上がらなかったチームを上昇気流に乗せた。のちにネルシーニョ監督が、シーズンの流れを左右したターニングポイントとして挙げた一戦だった。
土壇場でチームを救った江坂は、以降スタメンに定着。チームは翌19節のジェフユナイテッド千葉戦から破竹の11連勝を記録し、一気にJ2の首位へと躍り出ることになる。
点を取っても負けたら意味がない
「1点目も良かったけど、2点目は動き直しで相手を剥がせた。ボールを持っていないときの動きが良かった」
自身の言葉どおり、好判断と巧みなオフ・ザ・ボールの動きによって生まれた追加点。ボールを持つクリスティアーノに対し、サポートの動きから一度は足元へのボールを要求したが、相手選手がそのケアに入ると見るや、瞬時の判断でプレーの選択を変更。敵の背後へと動き直し、クリスティアーノのスルーパスからゴールを陥れた。しかもこの得点に至るカウンターは、札幌のMF宮澤裕樹からボールを奪った江坂の中盤での守備から始まったものだった。
「守備のことはネルシーニョによく言われる。守備の意識はネルシーニョになってから自分の成長した部分、強くなった部分でもある。それが得点につながった」
自らの真骨頂と、昨年1年間の成長という両面を見せつけた開幕戦のパフォーマンス。試合後は2得点を記録したことよりも、チームの勝利を純粋に喜んだ。そこには、江坂が抱く強烈な矜持(きょうじ)がある。
「点を取っても負けたら意味がない。得点やアシストの数ではなく、試合全体を見たときに、『こいつがいたから勝てた』と言われるようなプレーをして、チームの勝利に貢献したい」
江坂が掲げる目標は、得点・アシストの数ではない。抽象的だが、いかにチームを勝たせるプレーをするか、だ。
おそらく今シーズンのJ1でもオルンガとクリスティアーノはゴールを重ね、得点ランキング上位に名を連ねるだろう。ただ、背番号10が輝きを放つことで、彼らの破壊力は何倍にも増幅される。その証拠とばかりに、オルンガが「(江坂)任はインスピレーションがあってクリエイティブ」と言えば、クリスティアーノも「テクニックに優れた頭の良い選手」と賛辞を惜しまない。
数字では計り知れない、絶大なる影響力を誇る唯一無二の選手。柏の“二枚看板”までもが一目を置く江坂とは、そういう存在なのだ。
(企画構成:YOJI-GEN)
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