連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

絶大なる影響力を誇る唯一無二の存在 江坂任には柏の“二枚看板”も一目置く

鈴木潤

オルンガとクリスティアーノの破壊力を引き出しながら、みずからも貴重なゴールを奪う。柏の前線に絶対不可欠な存在となった江坂は「チームを勝たせる男」だ 【(C)J.LEAGUE】

 いきなり2ゴールをマークするなど、北海道コンサドーレ札幌との今季開幕戦で、進化を証明するハイパフォーマンス。チーム最大の得点源であるオルンガとクリスティアーノの強力助っ人コンビが大きな信頼を寄せ、一目置く江坂任は、J1復帰を果たした柏レイソルの命運を左右する、文字通りのキーマンだ。

高度なテクニックで単調な攻撃に変化を

 2月22日の開幕戦、柏レイソルは北海道コンサドーレ札幌を4-2で下し、J1復帰戦を白星で飾った。この試合で注目を集めたのが、加入3年目のオルンガだ。高さ、速さ、強さ、うまさの四拍子がそろったケニア代表のストライカーは、昨シーズンのJ2で猛威を振るった勢いそのままに、柏がたたき出した全得点に絡む働きを見せたのだ。

 このオルンガ、そしてクリスティアーノと、柏では2人の強力な外国籍アタッカーの存在がひときわ目を引く。たしかに彼らは、圧倒的な個の力を持つ柏の“二枚看板”だ。J2優勝を成し遂げた昨シーズンも、オルンガが27得点、クリスティアーノが19得点・18アシストと、いずれもMVP級のパフォーマンスを披露している。

 ただ、彼らがゴールを量産できるのも、トップ下の位置から攻撃に変化を与えるこの男がいるからだろう。柏の背番号10、江坂任である。

 オルンガとクリスティアーノが相手ディフェンスの背後を狙うプレーを得意にしているのに対し、江坂はゾーンの間に生じるわずかなスペースを支配し、狭いエリアでボールを収められる高度なテクニックが魅力だ。

 いくら助っ人コンビが強力とはいえ、背後狙いの攻撃だけを繰り返していては、リズムが単調になってしまう。だが、相手にとって危険なエリアで江坂がパスを受け、前を向くからこそ、攻撃に変化と彩りが加えられる。つまり、オルンガとクリスティアーノの背後を取る動きが、江坂が間を取ることによってさらに引き立つのだ。

ターニングポイントの一戦で起死回生弾

 昨シーズンのJ2序盤戦、柏は勝ち星が伸びずに苦しんだ。オルンガとクリスティアーノをめがけてロングボールを放り込む形ばかりが目立ち、攻撃の単調化による極度の得点力不足に陥っていた。

 もちろん、ネルシーニョ監督の志向するスタイルがまだチームに浸透しておらず、戦い方が定まっていなかったことも影響していただろう。しかし、開幕前の負傷によって江坂が出遅れ、スタメンに定着できなかったことも、攻撃にリズムが生まれない原因のひとつだった。

 その後、18節のアビスパ福岡戦で、江坂は4試合ぶりに先発出場。福岡の1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、江坂の起死回生の同点ヘッドが決まり、柏は辛くも勝ち点1をたぐり寄せた。選手たちはこの試合でネルシーニョ監督が要求するスタンダートをつかみ取り、さらに最後の最後で追いついたというポジティブな結果が、それまで調子の上がらなかったチームを上昇気流に乗せた。のちにネルシーニョ監督が、シーズンの流れを左右したターニングポイントとして挙げた一戦だった。

 土壇場でチームを救った江坂は、以降スタメンに定着。チームは翌19節のジェフユナイテッド千葉戦から破竹の11連勝を記録し、一気にJ2の首位へと躍り出ることになる。

点を取っても負けたら意味がない

 今シーズンの開幕戦で、江坂はオルンガとともに2ゴールを記録した。13分の先制点が、ボックス前のスペースでパスを受け、ドリブルでマーカーを剥がし、左足で札幌のGKク・ソンユンの手元を射抜く真骨頂とも言うべきプレーだとすれば、58分の追加点は江坂の進化形態と言うべきか。

「1点目も良かったけど、2点目は動き直しで相手を剥がせた。ボールを持っていないときの動きが良かった」

 自身の言葉どおり、好判断と巧みなオフ・ザ・ボールの動きによって生まれた追加点。ボールを持つクリスティアーノに対し、サポートの動きから一度は足元へのボールを要求したが、相手選手がそのケアに入ると見るや、瞬時の判断でプレーの選択を変更。敵の背後へと動き直し、クリスティアーノのスルーパスからゴールを陥れた。しかもこの得点に至るカウンターは、札幌のMF宮澤裕樹からボールを奪った江坂の中盤での守備から始まったものだった。

「守備のことはネルシーニョによく言われる。守備の意識はネルシーニョになってから自分の成長した部分、強くなった部分でもある。それが得点につながった」

 自らの真骨頂と、昨年1年間の成長という両面を見せつけた開幕戦のパフォーマンス。試合後は2得点を記録したことよりも、チームの勝利を純粋に喜んだ。そこには、江坂が抱く強烈な矜持(きょうじ)がある。

「点を取っても負けたら意味がない。得点やアシストの数ではなく、試合全体を見たときに、『こいつがいたから勝てた』と言われるようなプレーをして、チームの勝利に貢献したい」

 江坂が掲げる目標は、得点・アシストの数ではない。抽象的だが、いかにチームを勝たせるプレーをするか、だ。

 おそらく今シーズンのJ1でもオルンガとクリスティアーノはゴールを重ね、得点ランキング上位に名を連ねるだろう。ただ、背番号10が輝きを放つことで、彼らの破壊力は何倍にも増幅される。その証拠とばかりに、オルンガが「(江坂)任はインスピレーションがあってクリエイティブ」と言えば、クリスティアーノも「テクニックに優れた頭の良い選手」と賛辞を惜しまない。

 数字では計り知れない、絶大なる影響力を誇る唯一無二の選手。柏の“二枚看板”までもが一目を置く江坂とは、そういう存在なのだ。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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