「自立した選手と自律したチームを作る」 岡田メソッドを通して伝えたいこと
第1回
サッカー日本代表をW杯ベスト16に導いた名将・岡田武史氏が、『岡田メソッド』を通して伝えたいこととは 【スポーツナビ】
「スペインには、プレーモデルという、サッカーの型のようなものがある。その型を、選手が16歳になるまでに身につけさせる。その後は、選手を自由にさせるんだ。日本には、型がないのか?」
自立した選手を、どう育てるか
「日本の選手は、こういうときは、どうプレーすればいいかと、なぜ聞いてくるんだ? それを自分で考えるのがサッカーだろ!」
それまで、私たち日本の指導者は、「ここでボールを持ったら、あそこに蹴れ」とハウツーを教えてきました。
その後、実績のある外国人監督たちの話を聞き、我々は方向転換しました。サッカーは、試合中に監督がサインを出せない。作戦タイムをとれない。攻守が瞬時に変わるなかで、選手が自分で判断しなくてはならない。だから、ハウツーを教えて型に嵌めてはいけない。子どものときは、教えすぎず、自由を与えて、自分で判断させよう。そして、高校生(16歳)ぐらいから、チーム戦術を教えるようになりました。
ところが、ジョアンが言うには、スペインには型があり、それを16歳までに教えて、その後は自由にするという。まったく逆じゃないか!
一方で私自身、コンサドーレ札幌や横浜F・マリノスというクラブの監督をやるなかで、結果を残すことに関しては、方法論がある程度見えてきました。誤解を恐れずに言えば、確率論で考えるのです。そうすれば、ある程度、結果は出るのです。
サッカーの攻撃は、相手のゴールに対して最短距離である中央を攻めるのが一番です。しかし、相手も一番怖いと思っている中央は、守備を固めてくる。相手選手のレベルにもよりますが、中央を攻めるとミスをして、カウンターを受ける確率が高くなります。
一方、今のサッカーの得点の30〜40%がセットプレーがらみで、残りの60〜70%のうち、後ろからパスをつないでビルドアップしてからの得点は、せいぜい15〜20%と言われています。残りはカウンターアタックなので、それを防げば失点は劇的に減ります。
そこで私は、中央ではなくサイドから攻めろと選手に言っていました。とはいえ、選手はリスクにチャレンジする面白さもあり、中央を攻めたがるものです。
中盤でボールを受けた選手が中央を攻めようとすると、私がベンチから「外へ出せ!」と叫ぶ。選手は内心「うるさいな!」と思いつつも外へ出す。そうすると勝つのです。
結果が出るようになると、選手たちも、空いていたら一番に攻めなくてはいけない中央を見ることなく、サイドにパスを出すようになりました。
そんな彼らのプレーを見て、私はかなり悩んでしまいました。結果は出しているが、自分は本当に選手を育てているのか? チームを育てているのか? これで勝ちつづけるチームになっているのか? どうすれば、自立した選手の集まった、自律した組織になるのだろうか?
その後、サッカー以外のさまざまな勉強をしたり、チーム作りにおいても、新しい挑戦をはじめました。たとえば、試合後の反省ビデオを「××すべき」から、「いいね」ビデオに変えたりしました。
トレーニングの組み立ても変えてみました。通常のトレーニングでは、まず単純な要素を練習し、次に複雑な練習をするという流れになります。それをひっくり返して、最初に複雑な練習をさせるのです。
そうすると、選手の頭の上に「はてな」マークが浮かびます。その後、単純な要素の練習をさせると、「あっ、監督は、このことを言いたかったのか」と気づくようになりました。この「気づき」は、教えられるよりも選手の頭の中に強く残ります。そして気づいた選手は自ら「監督は、こんなことも考えているのかもしれない」と先を考えるようになります。
それに対して、教えられるのをただ待っている選手は、次は何を教えてくれるんだろうかと待っているだけです。この差は歴然としていました。
監督として、こうした小さな答えは見つかりましたが、これだという本質的な答えは、まだ見えませんでした。何か根本的な解決を手に入れるための秘密の鍵があるのではないかと、探し求めていたのです。
「その答えが、ここにあるかもしれない」
冒頭で紹介したジョアンの話を聞いたとき、そう直感しました。
そして、こんなふうに思いはじめたのです。
Jリーグができたとき、外国人指導者たちが言っていた「自分で考える」という自由は、「プレーモデル」という型を身につけたうえでの自由だったのではないか。にもかかわらず、私たちは表面だけを真似てしまったのではないだろうか? だから、日本人は言われたことはきちんとやるが、「自分で判断できない」「驚くような発想が出てこない」と今でも言われるのかもしれない。
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