謎の数字を叫ぶとボールが回りだす “岡田メソッド”の神髄を垣間見た
16歳までのサッカー指導体系
岡田メソッドのトレーニングをメディアに初公開。中学生に実技指導を行い、メニューの一部を披露した 【スポーツナビ】
10メートル四方のグリッドを2つ並べ、その中に攻撃の選手2人、守備の選手2人、さらにグリッドの両サイドに2人のレシーバーを置いて行われた4対2のトレーニング。それまでパスがまったくつながらなかったのに、子どもたちが“謎の数字”を叫ぶようになると、ボールが突然回り出したのだ。まるで何かの呪文のようだった。
少し離れたところで見守っている岡田武史氏から「素晴らしい!」「周りをしっかり見よう!」「声を出すのを忘れているぞ!」という声が飛ぶ。
これは、2月15日に行われた“岡田メソッド”の講習会のひとコマだ。
“岡田メソッド”とは、「16歳までに自立した選手、自律した組織を作るためのサッカーの指導体系」である。
ことの発端は2014年、岡田氏がFCバルセロナでメソッド部長をしていたジョアン・ビラから、次の言葉を聞いたことにある。
「スペインにはプレーモデルという、サッカーの型のようなものがある。その型を、選手が16歳になるまでに身につけさせる。その後は、選手を自由にさせるんだ。日本には、型はないのか?」
岡田氏にとって、この言葉は衝撃的だった。というのも、これまでの日本の指導では子どもの頃は教えすぎず、自由を与えて自分で判断させ、16歳くらいからチーム戦術を教える傾向があったからだ。
「でも、ジョアンが言うにはスペインには型があり、16歳までに教えて、その後は自由にするという。まったく逆じゃないか! と」
岡田氏自身、これまで指導してきたなかで、主体的にプレーするのが苦手で、教えられるのをただ待っている日本人の欠点を痛感しており、根本的な解決法を模索していた。
そんなときに聞いたジョアン・ビラの言葉――。そこに、問題を解決するための“秘密の鍵”があるのかもしれない、と思ったのである。
「日本人が世界で勝つためのプレーモデルの原則を作り、16歳までにそれを体得し、その後、原則が潜在意識に入っていながら、頭は完全にフリーな状態で、直感的に生き生きとプレーする。そんなチームを作ってみたい」
そう考えた岡田氏は、14年に愛媛県今治市にあるFC今治のオーナーになり、そのアカデミーで試行錯誤しながら、“岡田メソッド”を構築してきた。
その間、かつて監督を務めた中国の杭州緑城のアカデミーにも“岡田メソッド”を導入し、コンサルティングを行ってきた。岡田氏が説明する。
「答えは10年後に出ると話していましたが、うちの育成や杭州緑城で試してみたら、こんなに変わってくるのかと。私自身もメソッド作りに携わるなかで試合を見る目が変わってきた。これは10年待たずに広めてもいいんじゃないかと思ったんです」
こうして“岡田メソッド”を約300ページに及ぶ書籍としてまとめ、出版するに至った。今回の講習会は、それを記念して開かれたものなのだ。
右腕は元福岡のアカデミーダイレクター
この日、実際に指導したのはFC今治メソッドグループ長の橋川和晃コーチ。岡田メソッド構築のキーマンだ 【スポーツナビ】
最初に行われたのは、6対6のゲームだ。黄色、グレー、赤のビブスを来た子どもたちが入れ替わりながらゲームを行った。
それが終わると、橋川コーチの周りに集合して「GOOD、BAD、NEXT」を振り返った。トレーニングの区切りで「良かったこと、悪かったこと、次どうするか」を確認するのがFC今治の指導の特徴だ。ここでは橋川コーチが問いかける形で進められた。
「どこが良かった? そう。最後ボールを奪ってゴールできたね。すごく大切なこと。他には? ピッチを広く使えた。なんで広く使った方がいいの? その通り。スペースが生まれる。これ、原則だな。他には? 遠目からシュートが打てた。うん。外れたけど、良いタイミングで打てたね」
その後、橋川コーチから、いかにボールを前進させてゴールを狙うかを意識するように、目的を考えながらプレーするように、という注文が出されたあと、プレーモデルの映像をみんなで見ながら、橋川コーチが問いかけていく。
「ボールを奪われたら切り替えて、奪い返して得点する。これ、さっきやれていたよね。こういう場面があることを忘れないでね。次、奪いに行けないときは、いいポジションを取って、相手に自由に攻撃させない。これも大事。相手の攻撃を制限しながら、ボールを奪うチャンスを作り出そう」
それが終わると、サポートの仕方、ボールの受け方、ポジショニングを意識させるトレーニングが始まった。冒頭のトレーニングも、その一環だ。