- 宇都宮徹壱
- 2020年3月3日(火) 13:00
マーケティング目線で考える「ファン」と「サポーター」の違い

2020年のJリーグが始まった。J1開幕節、9会場で17万2,001人ものファン・サポーターが集まった。もっとも、昨年の開幕節が23万5,144人であったことを思うと、いささか寂しい数字である。これは言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響だろう。その後Jリーグは3月15日まで、J1からJ3のすべてのリーグ戦とルヴァンカップの試合の延期を発表。残念ではあるが、Jリーグの賢明な判断を支持しつつ、一日も早く事態が収束することを期待したい。
さて、先ほど私は「ファン・サポーター」と書いた。あらためて皆さんに問いたい。ファンとサポーターの違いとは何なのだろうか? ゴール裏で歌い飛び跳ねながら応援している人たちは、間違いなくサポーターと呼べるだろう。では、バックスタンドの2階席から、10年以上も試合を見続けている人はどうだろう? この場合、単なるファンではなくサポーターと呼んだほうがしっくりくる。ならば、ファンとサポーターとの間には、どのあたりに境界線があるのだろうか。
この難しいテーマについて「自分でチケットを買って3回以上来場していたらファン。年間シートの来場者はサポーター」と明快に定義する人がいる。Jリーグのコミュニケーション・マーケティング本部でマーケティング担当オフィサーを務める濱本秋紀氏だ。もっとも、ここでいう「ファン」「サポーター」の定義は、デジタルマーケティングに依拠したもの。ちなみに濱本氏によれば、サポーターがさらに進化したのが「プロモーター(推奨者)」。つまり新しい顧客を連れてくる人である。
今回、Jリーグの「toC戦略(ファンへの取り組み)」について、話を聞く機会を得た。取材に応じてくれたのは濱本氏の他に、上司に当たるマーケティング部部長の笹田賢吾氏、そしてデロイト トーマツ グループのシニアマネジャーである森松誠二氏である。Jリーグの「toC戦略」を考えたときに、絶対に外せないのがデジタルマーケティング。最近は「デジタルマーケ」という言葉をよく耳にはするものの、その実態は部外者には分かりにくい。そこで今回、このお三方にご教示いただくことになった次第である。
Jリーグのデジタル化は村井チェアマン就任から始まった

20年、Jリーグは大きな組織変更を行った。このうちデジタル部門を一手に担ってきた株式会社Jリーグデジタルは、Jリーグ本体に組み込まれ、コミュニケーション・マーケティング本部に改組。およそ30名が所属する同本部は、コミュニケーション部、マーケティング部、そして映像制作部に分かれている。このうち、笹田氏が部長を務めるマーケティング部を構成するのが、プラットフォーム開発グループ、EC推進グループ、そして濱本氏が所属する集客・視聴推進グループである。
この組織図を見れば、チケッティングやマーチャンダイズなどで得られた顧客データ(JリーグID)を一括管理して活用しようとする意図は一目瞭然である。もっともJリーグのデジタルマーケティング重視は、何も今に始まった話ではない。最初の契機となったのが、村井満氏のJリーグチェアマン就任で14年のこと。その1年後、ニフティから転職したのが笹田氏であった。まずは当時の状況について、笹田氏に語ってもらおう。
「Jリーグの5つの重点戦略のひとつに『デジタル技術の活用推進』がありました。例えばJリーグの認知度を上げるのに、全国地上波テレビでCMを1本打っただけで何億円もかかるわけですが、デジタルを活用すればより効果的でコストパフォーマンスもいいわけです。その『How(どうやって)』の部分に関して、最初の社員となったのが私でした。チェアマンからは『Jリーグのデジタル化の第一歩は、笹田を雇ったことだ』と言われましたね(笑)」
ここで、時代背景を確認しておこう。村井氏がチェアマンに就任する直前、Jリーグでは入場者数が頭打ちとなる次善策として「地上波での露出が必須」という考え方が主流となっていた。その目玉となるのが、15年からの実施が決まっていた、J1リーグの2ステージ+チャンピオンシップ制。まだDAZNの「ダ」の字もなかった頃の話だ。そんな中、Jリーグが(というよりも村井チェアマンが)地上波での露出よりも、むしろデジタルマーケティングの方向に舵を切ろうとしていたという事実は、注目に値すると言えよう。