連載:私たちが現役を諦めない理由

二度の震災を経験した元阪神・歳内宏明 8年間のNPB生活を終えて思うこと

瀬川ふみ子
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これまでの人生でかかわってきたあらゆる人のために野球をしてきた歳内宏明が、これからは自分のために野球を続けることを決断。そんな彼に今の心境を聞いた 【写真は共同】

 聖光学院高2年の夏、伝家の宝刀・スプリットを武器に甲子園で鮮烈デビューをした歳内宏明は、3年夏、東日本大震災直後の“福島の思い”を背負って甲子園に戻ってくると、再び奪三振ショー。初戦突破しながら2回戦で敗れ「福島の人に申し訳ないです」と涙ながらに語り、甲子園を後にした。そんな歳内は、甲子園を本拠地とする阪神タイガースに入団。3年目、4年目には中継ぎとして活躍し、日本シリーズやCSのマウンドにも上がった。だが、5年目からは右肩痛に泣いた。7年目には育成選手登録になったが、そこから這い上がって支配下登録。8年目の今年は状態も良かったが、一軍のマウンドに戻ることはできないまま戦力外通告がなされた。歳内が今、思うこと。そして、今後についてを、生まれ育った場所・兵庫県尼崎市で聞いた。

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父の姿を見てプロ野球選手になると決めた

家族を支えるために必死で働く父の姿に、当時の歳内は「プロ野球選手になる」と心に決めたと話す 【瀬川ふみ子】

――NPBを離れることとなった話をお聞きする前に、プロ野球選手を目指すようになったきっかけを教えてください。

 一番は父ですね。物心ついたころから、父は働きづめ。家には帰ってきてるんやろうけど、ほとんど顔を合わせることもないぐらい朝から晩まで外で働いていて。長男として、そんな父を助けたいと。

――お父さんがそこまで働いていたのは阪神・淡路大震災の影響ですね。

 そうです。僕ら家族が住んでいた(兵庫県尼崎市の)マンションはヒビが入るぐらいで大丈夫だったのですが、祖父母の(同じく尼崎市内の)自宅兼店(酒屋)が地震で半壊。また地震が起きたら確実に倒壊するからと、建て直したんです。商品も冷蔵庫とかも全部買いそろえたのを含めると4000〜5000万円。父は、その多額の借金を返すために、土日も休まず、朝から晩まで働いていました。その姿を見ていたので、なんとしてもプロ野球選手になって父を楽にしたかったんです。

――高校は福島の聖光学院高へ進学。高校3年になる直前の3月11日、東日本大震災が発生しました。

 それまでは、プロになることだけを目指して野球をしていたところがあったんですが、あの地震後は、福島のみなさんに喜んでほしいと思って投げるようになりました。大変な中でも、テレビの向こうで応援してくれている。そんなニュースを見て、なるべくいっぱい甲子園で試合がしたい、そのために勝ちたいって。でも、2回戦で敗退。応援してくれる福島の方々に申し訳なかったです。

――その年のドラフトで阪神タイガースから2位指名を受けました。

 ホッとしたというのが一番です。これで父親を休ませてあげられる、と。契約金(6000万円)はそのまま両親に渡して、借金はすべて返済。父は週に1〜2日の休みができて、実家に車も買えて、これで長男としての役目は果たせたかなって。

右肩痛に泣いたプロ生活

順調にプロの階段を昇る歳内を襲った右肩痛。さまざまな治療を試しながら投げ続ける決断をしたが…… 【写真は共同】

――プロ1年目で一軍デビューを果たし、3年目に初勝利。日本シリーズでも登板。3年目のシーズン前には結婚もして、お子さんも誕生。今度は“自分の家族”のためにも頑張る姿がありました。

 その年までは良かったんです。でも、そこから肩がおかしくなって……。前の年に1軍でずっと投げていたこともあって、金本(知憲/当時)監督から「来年はセットアッパーとして期待している」と声をかけていただいたんです。

 でも、肩が痛い。すごく痛い。でも、「痛いです」と言ってチームを離れたら、もう、こんなチャンスは来ないかもしれない、そう思ったので、5年目のシーズンは、注射を打ち、我慢しながら投げていました。投げながら状態が上がっていったらいいなと思って。

――でも、なかなか状態は上がらなかった……。

 そうですね。開幕して1カ月ぐらいで2軍に落ちて、そこからもだましだましやっていたのですが、球速は全然出ない。それでもずっと2軍で投げ続けていて。翌6年目のシーズンのキャンプも一軍に呼んでもらいましたが、いよいよ肩がおかしい。キャンプ直後にマネージャーに呼ばれて「お前、絶対どこか痛いだろう。正直に言え」と。初めて「肩が痛いです」と伝え、治療に専念することになりました。

――結局、どういう決断をしましたか?
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