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進化し続ける4階級王者・井岡一翔
大みそか決戦が極めて重要な理由
2019年6月19日に日本人男子初となる世界4階級制覇を達成。あれから半年、井岡一翔はどう進化しているのか
2019年6月19日に日本人男子初となる世界4階級制覇を達成。あれから半年、井岡一翔はどう進化しているのか【山口裕朗】

 WBO世界スーパーフライ級チャンピオンの井岡一翔(Reason大貴)が大みそか、大田区総合体育館で同級1位のジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)を迎えて、初防衛戦を行う。4階級制覇から約半年、井岡はどんなパフォーマンスを見せるのか? 試合の行方、そして勝利の先にあるものを見てみよう。

“記録ずくめの男”井岡

 国内史上最速(当時)となるプロ7戦目で世界王者に輝いたのが2011年のこと。以来、日本人選手同士による初の2団体統一戦勝利、国内最速となる11戦目での世界2階級制覇、18戦目での3階級制覇と突き進み、今年6月にはついに日本人男子選手として初の世界4階級制覇を達成。


 記録ずくめの男、それが井岡一翔というボクサーなのだ。


 数々の記録を打ち立てている井岡と言えども、そのボクシング人生がずっと順風満帆だったわけではない。大きなターニングポイントは17年の大みそかに引退を発表したことだ。半年余りで現役復帰を表明したが、この時掲げた目標が、日本人男子選手初の世界4階級制覇と、本場アメリカへの進出だった。


 18年の大みそか、井岡は同じく3階級制覇王者のドニー・ニエテス(フィリピン)と空位のWBO世界スーパーフライ級王座を争い、小差判定で涙を飲んだ。この敗戦から多くを学んだのは、フライ級での3階級制覇に1度失敗、2度目で成就させた井岡ならではの学習能力と言えるだろう。


 具体的には、フィジカルトレーニングに真剣に取り組んだ。職人技とも言えるスキル、スタミナを保持する井岡に泣き所があるとすればパワーだった。フィジカルトレーニングで力強さを増した井岡は今年6月、パワーが売りのアストン・パリクテ(フィリピン)を相手に打ち合いも辞さないファイトを演じて10回TKO勝ち。日本人初の4階級制覇を達成した。

迎え撃つのは“曲者”シントロン

パリクテ戦ではこれまで評価されてきた技巧にパワーをプラス。進化した姿を見せつけた井岡(写真右)
パリクテ戦ではこれまで評価されてきた技巧にパワーをプラス。進化した姿を見せつけた井岡(写真右)【山口裕朗】

 その井岡が迎え撃つシントロンは、ランキング1位の指名挑戦者であり、そのキャリアをたどればなかなかの強豪と言えるだろう。


 アマチュア時代にプエルトリコ代表として五輪に2度出場。アマで250戦以上のキャリアを積んでプロに転じ、ここまで11勝5KO1無効試合と不敗レコードを維持している。


 直近の試合は19年8月、日本の江藤光喜(白井・具志堅)とのWBO挑戦者決定戦だ。両者は同年5月に対戦し、この時は江藤が初回にシントロンからダウンを奪い、一度はTKO勝ちを宣告されたが、シントロンのダウンが江藤のパンチではなく、バッティングだと判明して無効試合となった。


 迎えた8月の第2戦、サウスポーのシントロンはアウトボクシングを展開し、強打の江藤を空転させて大差判定勝ち。目を見張るようなパワーやスピードに恵まれているわけではないが、常に動き回るフットワークと長いリーチが特徴的で、なかなかの“曲者”という印象だ。この試合の印象が強いのだろう、井岡も「足を止めない、よく動き回る選手。技術も高い」とシントロンを技巧派サウスポーと見ている。


 シントロンは『ボクシング・ビート』誌のインタビューで「私は前進してアグレッシブな戦法でも戦える。二つの拳の威力がある。(強いパンチを)強いて挙げればアッパーカット。アグレッシブでもあり、コンプリートなボクサーだと自負している」と語っている。決して迫力のあるタイプではないが、本人はただの技巧派ではないと主張したいようだ。


 もちろんアグレッシブに攻める時もあるだろうが、基本的には足を使って距離を取るタイプであり、試合はガードを高く掲げた井岡がジワジワとプレスをかけ、シントロンがこれをカウンターの左ストレートを軸に迎え撃つ構図となるはずだ。


 無駄のない追い足とスタミナに定評がある井岡は「世界戦では足を使って楽に戦えないということを教えたいですね」と貫禄十分。巧みに距離を詰めて得意のボディブローで削っていけば、後半のストップ勝ちも見えてくる。そんな計算をしているのではないだろうか。


 井岡をよく知るボクシングジム『KOD LAB』の代表、元WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志氏は次のように話す。


「一翔はもともとテクニシャン。以前は少し安全運転の印象がありましたが、復帰してからの彼は自分から積極的に距離を詰める、より攻撃的なボクシングになりました。言ってみれば“男らしい”ボクシングになったきた。同じくテクニシャンのシントロンは足を使って動き回るでしょう。一翔が追いかけて、どうやって捕まえるかがポイントになると思います」


 内山氏はシントロンの技巧を高く評価しており、井岡といえどもそう簡単に挑戦者を捕獲できないと予想している。それでも正確で緻密なスタイルに、パワーと攻撃性を加味したチャンピオンが相手を徐々に追い詰め、最終的には判定勝ち、ないしは終盤のTKO勝ちに期待を寄せている。

渋谷淳

1971年生まれ、東京都出身。河北新報社、内外タイムス社をへてフリーのスポーツライターに転身。カバーしている競技はボクシングを中心にラグビー、レスリング、柔道、バスケットボールなど。現在は『Number web』で「ボクシング拳坤一擲」を連載するほか、専門誌『ボクシング・ビート』が運営するウェブサイト「ボクシングニュース」でメインライターを務める。著書に『慶應ラグビー 魂の復活』(講談社)がある。

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