井岡一翔が迎える8度目の大みそか 波乱と栄光に満ちた足跡を振り返る

友清哲
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実績と風格をまとい、大みそかのリングへ

2019年6月、技巧とパワーの素晴らしいパフォーマンスで4階級制覇を達成した井岡一翔 【山口裕朗】

 格闘技が年末の風物詩となって久しい昨今。師走のプロボクシング興行はここ数年、少しずつ日程の分散化が進んでおり、今年の大みそかにはWBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(Reason大貴)と、同フライ級王者・田中恒成(畑中)のタイトルマッチがセットされた。

 ひと頃の大みそかには大型興行が2つも3つも重なったことを思えば、いささか寂しい気もするが、両王者の防衛戦に集中できるのはファンにとって悪いことではないだろう。何より、井岡が4階級制覇、田中も3階級制覇と、実力派2人のそろい踏みは、やはり年の瀬ならではの贅沢(ぜいたく)興行と言っていいはずだ。

 井岡、田中の両名とも、大みそかの顔としてなじみ深い存在である。とくに井岡は、今年で実に8回目となる大みそか登板。2011年以降は、17年の電撃引退会見以外は毎年リングに上がり続けている。

 とりわけ今年の井岡は、日本初の4階級制覇王者として初防衛戦に臨む立場。10代の終わりにプロ転向を表明した井岡も、はや三十路に差し掛かり、実績と風格をまとって大みそかのリングに登場することになる。

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好血統と高校6冠、スターへの約束

当時最短記録であったプロ7戦での世界奪取は大きな話題となった 【写真は共同】

 思えばそのプロ転向当時を振り返ってみれば、まだ井上尚弥(大橋)も村田諒太(帝拳)もいないプロのリングにおいて、井岡の存在は映えに映えた。

 2階級制覇王者・井岡弘樹のおいという良血に加えて、高校6冠を含むアマチュアでの華々しい実績。09年4月、多くの話題性とともに迎えたプロデビュー戦で井岡は、当時のタイ王者を3ラウンドで片付けてみせ、早くもスター選手になることは既定路線のように感じられたものである。

 果たして、井岡のプロキャリアは順調かつ盤石で、国内レベルの相手を問題とせず、無敗のまま6戦目で日本ライトフライ級タイトルを獲得。続く7戦目で時のWBC世界ミニマム級王者オーレイドン・シスサマーチャイ(タイ)に挑み、5ラウンドTKO勝利で世界のベルトを奪取して見せたのが11年2月のことだった。

 ちなみに、7戦目での戴冠は、辰吉丈一郎や名城信男の「8戦目」を抜く、当時の最短記録。まさに新たなヒーローの台頭を印象づけた一戦と言えるだろう。

 折しも当時の日本ボクシング界では、亀田興毅がマッチメイクを批判されながらも日本人初となる3階級制覇を達成したばかり。年嵩のファンはきっと、3階級制覇の悲願かなわずグローブを吊るした叔父・弘樹の存在を思い返し、ことさら井岡への期待を高めたに違いない。
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著者プロフィール

1974年、神奈川県生まれ。大学在学中にボクシングのプロライセンスを取得し、編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の杜文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『怪しい噂 体験ルポ』『R25 カラダの都市伝説』(ともに宝島SUGOI文庫)ほか。

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