進化し続ける4階級王者・井岡一翔 大みそか決戦が極めて重要な理由

渋谷淳

勝利の先にあるのは、ファン垂ぜんの対決か――?

25日の調印式でポーズを取る井岡(写真左)とシントロン。この試合をきちっとクリアし、堂々と本場アメリカのリングへ殴り込みたい 【写真は共同】

 井岡はこの試合をきちっとクリアして、復帰したときに掲げたもう一つの目標、「世界進出」へと本格的に踏み出したいところだ。ある意味、海外への熱い思いを胸に抱きながら、2戦連続で国内での試合というのは、井岡にとって不本意なところもあるかもしれない。

 しかし、6月のWBO王座の獲得は「海外へ行くためのチケット」(井岡)を手にした意味のある試合であり、シントロン戦はWBOから義務付けられた指名試合である。逆に言えば、この試合をクリアすればWBO王者として堂々と本場のリングに殴り込めるというわけだ。

 待望するのは他団体王者との統一戦である。

 スーパーフライ級で人気と実力でトップに立つのは、メキシコのWBC王者、フアン・フランシスコ・エストラーダだ。エストラーダは20年1月、WBA王者のカリド・ヤファイ(イギリス)と統一戦を予定していたが、自身のケガで試合は取りやめとなり、先の見通しは立っていない。12月23日の横浜アリーナで復帰した元4階級制覇王者、“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)もスーパーフライ級で王座復活を狙っている。

 実際に元パウンド・フォー・パウンド・ランキング1位のロマゴンは、横浜アリーナで1年2カ月の復帰戦を飾ったあとで、井岡の名前をはっきりと口にした。あのロマゴンと井岡が対戦するとなれば、統一戦と同じレベルの関心を集めるのではないだろうか。

 もう一つ、12月上旬に来日したWBOのフランシスコ・バルカルセル会長が日本のメディアに向かって「ぜひ田中と井岡の対戦を実現させたい」と話したのも興味深い。

 WBO世界フライ級王者の田中恒成(畑中)は既に3階級制覇を達成。4階級制覇をかけて井岡にぶつけるというプランだ。今回、井岡と同じリングのセミファイナルにセットされたのが田中の防衛戦であり、2人の試合を中継するTBSにすれば両者の対戦は大歓迎だ。

 これらに関して井岡は25日のイベントで「今はシントロン戦に集中している。勝てば(ロマゴンも田中も)いち挑戦者として可能性があるのだと思う」と冷静にコメントした。「先のことを考えるとろくなことがない」とは古くて新しいボクシングの格言であり、キャリアのある井岡はそのことを十分に承知している。今後のステップアップのためにも、今回の指名試合は極めて重要な一戦となるだろう。

(企画構成:株式会社スターダイバー)

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著者プロフィール

1971年生まれ、東京都出身。河北新報社、内外タイムス社をへてフリーのスポーツライターに転身。カバーしている競技はボクシングを中心にラグビー、レスリング、柔道、バスケットボールなど。現在は『Number web』で「ボクシング拳坤一擲」を連載するほか、専門誌『ボクシング・ビート』が運営するウェブサイト「ボクシングニュース」でメインライターを務める。著書に『慶應ラグビー 魂の復活』(講談社)がある。

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