歓喜と悲しみのリスグラシュー有馬花道V 1周目誤算アーモンドアイ「これも競馬」

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牝馬の同一年での両グランプリ制覇は史上初

令和初の有馬記念はレーン騎乗のリスグラシューが圧勝、引退レースを有終の美で飾った 【写真:中原義史】

 JRA師走のグランプリレース、第64回GI有馬記念が22日、中山競馬場2500メートル芝を舞台に争われ、ダミアン・レーン騎乗の2番人気リスグラシュー(比5=栗東・矢作厩舎、父ハーツクライ)が優勝。中団後方の追走から最後の直線、大外から豪快に差し切り令和初の有馬記念ホースに輝いた。良馬場の勝ちタイムは2分30秒5。

 リスグラシューは今回の勝利で通算22戦7勝(うち海外3戦1勝)、GIは2018年エリザベス女王杯、19年宝塚記念、19年コックスプレート(豪州)に続く4勝目。同一年の宝塚記念&有馬記念の両グランプリ制覇は09年ドリームジャーニー以来、史上10頭目で牝馬では初の快挙。また、騎乗したレーン、同馬を管理する矢作芳人調教師ともに有馬記念はうれしい初勝利となった。

宝塚記念&有馬記念の両グランプリを同一年で制した牝馬は史上初 【写真:中原義史】

 一方、単勝1.5倍の断然1番人気に支持されていたクリストフ・ルメール騎乗のアーモンドアイ(牝4=美浦・国枝厩舎)は最後の直線で失速し9着敗戦。5馬身差の2着にはクリストフ・スミヨン騎乗の3番人気サートゥルナーリア(牡3=栗東・角居厩舎)、さらにクビ差の3着には武豊騎乗の4番人気ワールドプレミア(牡3=栗東・友道厩舎)が入った。

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2着スミヨンもお手上げ「勝ち馬が強すぎる」

「強すぎる」そんな言葉しか出てこない 【写真:中原義史】

 それにしても、物凄い有馬記念だった。普通、単勝1倍台で世界最強クラスと目される馬が大敗した場合、“なぜ負けたのか?”というテーマが先に来るものだが、このレースに限ってはアーモンドアイの敗因がどう、展開がどう、ペースがどうとか、そういった要素はまるで重要にならない。ただ、ひと言、

「リスグラシューが強すぎた」

 誰もが今年の有馬記念でまず思った感想だとは思うが、それはレースに騎乗していたジョッキーも同じ。2着サートゥルナーリアの鞍上スミヨンは「勝ち馬が強すぎる」、通訳に向けて何よりも先にこう伝えたという。

 ここまで純粋な“強さ”を見せつけられては、こちらとしてはもう特別に書くことはない。何か大げさに書いたところで白々しいというか、リスグラシューの素晴らしき有終の美が陳腐なものに成り下がってしまうのを恐れてしまうのだが、ここでは場内インタビューの後で行われた共同インタビューでのレーン、ルメールらの言葉をもとに、レースを振り返ってみたい。

1周目でリズム崩したアーモンドアイ「冷静に走れなかった」

 ゲートはレイデオロ、キセキの発馬が良くなかったことにまず目が行ったが、特にキセキが先行できなかったことで、アエロリットが定石通りにハナを主張した。

「スタンド前を行く競馬を経験したことがなかったので、馬がどうしても張り切ってしまった。頑張りすぎてしまいました」と津村。無理なく先手を取ることはできたものの、天皇賞・秋のようなマイペースとは程遠い。暴走に近い前半1000m58秒5のハイペースだった。

 そのような中、リスグラシュー、アーモンドアイはどうしていたか?

「いいスタートを切ることができました。ただ、レースとしてはペースが速いと感じていたので、ポジションにこだわるよりも、リスグラシューがリズム良く走れることを重視しました。そうしているうちに前後のポジションもだいたい予想していた通りとなりましたね」

 レーンが振り返ったリスグラシューの道中は理想通りの隊列とポジション。速い展開に惑わされることなく、3枠6番の枠なりから最内へ、中団より後方の位置取りを確保。馬群の中で折り合いも問題なし。対して、最大のライバル・アーモンドアイはリスグラシューのちょうど外側にいたのだが、ルメールにとってこれが一番の誤算だった。

1周目のスタンド前で「スイッチが入ってしまった」アーモンドアイ、これが響きデビュー以来初めての大敗を喫した 【写真:中原義史】

「最初のコーナーから1周目のスタンド前で冷静に走ることができませんでした。スイッチが入ってしまった。2500mでリラックスして走れなかったら最後は疲れてしまう。それはアーモンドアイでも同じで、最後は疲れてしまっていました。フィジカルは大丈夫だったんですが、馬のリズムが良くなかった。これも競馬です……」

 ルメールが語ったこの状況を、後に国枝調教師が補足して説明してくれたのだが、スタートして最初の4コーナーでゴチャついたときに、アーモンドアイは外に出てしまった。本来なら他馬の後ろか、リスグラシューのように馬群の中に入れて折り合いをつけたかったところを、1頭だけ外に出てしまい、加えて歓声が大きい中山2500m特有の“1周目のスタンド前”。ここでルメールの言う“スイッチ”が入ってしまった。こうなってしまっては、いかに世界最強クラスのアーモンドアイ、そして名手ルメールといえどもリカバリーは難しかった。

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