歓喜と悲しみのリスグラシュー有馬花道V 1周目誤算アーモンドアイ「これも競馬」

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最内から大外一気の強襲「手応えが良すぎました」

大外から一気に強襲したリスグラシュー(赤帽)、「手応えが良すぎた」と鞍上レーンも驚く末脚だった 【写真:中原義史】

 そんな1番人気の苦境をよそに、まず牙をむいたのが得意の右回り、中山で復活をかけた皐月賞馬サートゥルナーリアとスミヨンだ。前走の天皇賞・秋はゲートから折り合いを欠いて惨敗したが、この有馬記念は「ゲートに入ったときから、これならいける!」とスミヨンも自信を深めたほど、完ぺきとも言える立ち回りで最後の直線はいったん先頭へ。このまま新元号にふさわしい新世代のチャンピオンが誕生するかとも思ったが、それも一瞬の天下に終わった。サートゥルナーリアのさらに外から同じ勝負服のリスグラシューが、一気に襲い掛かってきたのだ。

 道中は確かに最内にいたはずなのに、最後の直線は大外からの強襲。この状況を、僕自身はうまく飲み込めないというか、頭の理解がまったく追いつけなかったのだが、リスグラシューはアッという間にサートゥルナーリアを引きちぎり、見る見る5馬身もの差をつけてゴールしていた。そのうえ、先頭に立ってからレーンはまったく馬を追っていない。なんだかよく分からないが、とにかく強すぎる――思い浮かんだ最初の感想がそれだった。

 このワープでもしたのかという4コーナーから直線の出来事を、レーンは次のように語った。

「4コーナーでは手応えが良すぎて、このタイミングでどこかスペースが空いているところに出なくてはと思ったんです。ちょうどその時に周りにスペースができたので、外に出したあとはリスグラシューの能力に任せていきました」

 直線で追い出した直後の反応も「物凄く速かった」とジョッキー。前を行くサートゥルナーリアを追い抜いたあとは、「この手応えなら後ろから差されることもない」と、この時点で勝利を確信したという。

「本当にグレイトな気分。とてもハッピーでした」

引退惜しむレーン「世界一になれる可能性も感じていた」

これで引退というのが本当に惜しい 【写真:中原義史】

 それと同時に悲しさも押し寄せて、ミックスエモーション、複雑な心境になったともレーンは振り返った。というのも、事前に発表されていた通り、リスグラシューはこの有馬記念が引退レース。どれだけ強い競馬を見せても、これがラストランになるのだ。

「強い馬で大きなレースを勝った直後は、またその馬で次のレースに乗ることがとても楽しみになるのですが、リスグラシューは今回で引退と聞いています。これが最後の騎乗になるのかと思ったら、勝ってうれしいんですけど、残念な気持ちにもなりました。自分が今までに乗った馬の中で一番の馬だと思っていますし、世界ナンバーワンにもなれる可能性も感じていました。だから、とても残念な気持ちですね……」

 引退について、矢作調教師も「そう聞いていますが……」とうつむき加減で、絞り出すように答えていた。本当に惜しい限りだし、レーンの言葉通りならば来年の凱旋門賞でも勝負になるのではとも思ってしまうが、一番いい時期に引退して、余力のあるうちにお母さんとなるのも、サラブレッドとしての大事な使命。再来年以降に生まれてくる2世たちに、母子2代のグランプリ制覇、海外GI制覇を期待したい。

 しかし、リスグラシューがこれほどまでの馬になるなんて、3歳、4歳のころは想像もつかなかった。ジャスタウェイがそうであったように、この成長力と覚醒がハーツクライの血なのだろう。そして、当コラムではあまり触れることができなくて大変申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、ここまで育て上げ、仕上げた矢作調教師と厩舎スタッフ、牧場関係者の皆さまには最大級の賛辞とおめでとうございますの声をお届けしたいです。

令和元年と言えば有馬記念、そんなレースに

2020年もJRAのプロモーションキャラクターを務める葵わかなさん(左)と記念撮影のレーン、日本の競馬の素晴らしさをぜひ母国オーストラリアでもたくさん伝えてください! 【写真:中原義史】

 最後に改めて、令和初の有馬記念は、アーモンドアイが参戦したこともそうだが、GI馬が同レース史上最多の11頭も出走したことで、近年では一番と言っていい盛り上がりとなった。オーストラリアにはレース当日が国民の休日となるぐらいのビッグレース、メルボルンカップがあるのだが、レーンいわく「メルボルンカップをしのぐぐらいの盛り上がり。日本にもこんな凄いレースがあるんだと、オーストラリアの人たちに伝えたい」とのことだ。

 オリンピックイヤーを目前に控えた2019年有馬記念は、まちがいなく日本競馬史に残るレースとなった。きょう、このレースをその目で見届けた人たちは、ぜひ「令和元年といえば、あの年の有馬記念は凄かったよ」と、長く語り継いでいってほしい。(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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