連載:川内優輝物語 -ゴールなきマラソンマン-

川内優輝物語 -ゴールなきマラソンマン- 第3話 人生を変えたレースの舞台裏

栗原正夫
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今季、「市民ランナー」から「プロ」へと転向をした川内優輝。マラソンの原点から世界陸上、そしてその先へと続く彼の人生に迫ったノンフィクションストーリー。イラストは川内のバイブルともいえる漫画『マラソンマン』の井上正治が描き下ろし。

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手応えを得た第4回東京マラソン

 タッタッタッタッタ!

 川内優輝の耳には集団の中で小気味のいいステップを刻む選手たちの足音が、まるでシンフォニーのように届いていた。並みいる実業団選手の中に交じり、先頭集団を走る自分の姿を客観視し、「人生で最高の走りができている」と喜びを噛み締めていたのだ。

 一方で、そのリズムが少しでも乱れれば集団から脱落する……。そんな危機感とも隣り合わせだった――。

【(C)井上正治】

 川内の頭の中に、そのときの記憶は今も鮮明に残っている。

 2010年2月28日、第4回東京マラソン。あいにくの雨模様でスタートしたレースは、気温5度。途中みぞれが落ちるという悪条件の中で行われていた。

 スローペースで進んだレースは、35キロを過ぎて一般参加の川内のほか、03年に2時間8分12秒で初マラソンの日本最高記録を出していた藤原正和(ホンダ)、08年東京マラソン2位の藤原新(JR東日本)、09年世界陸上ベルリン大会6位の佐藤敦之(中国電力)ら9人で先頭集団を形成し、混沌(こんとん)の様相を呈していた。

 誰が抜け出すのか、また誰が脱落するのか。張り詰めた緊張感が数キロ続く。

 ゴングが鳴ったのは40キロ過ぎだった。藤原正が帽子を投げ捨て一気にスパートすると、佐藤もレッグウォーマーを振り払って続き、藤原新もその後を追った。1度は離されかけた川内も懸命にその差を縮めにかかった。

 最終的には先頭集団から一足先に抜け出した藤原正が、2時間12分19秒で東京マラソンでの日本人初優勝を遂げた。川内は佐藤と藤原新を猛追。2人と並ぶようにゴールテープを切ったかに見えたが、わずかに及ばず4位に終わった。タイムは2位の藤原新が2時間12分34秒、3位の佐藤が2時間12分35秒、4位の川内が2時間12分36秒と、それぞれ1秒差だった。
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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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