卓球五輪代表を狙う吉村和弘 ダークホースから正真正銘の本命へ

高樹ミナ
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第46回は茨城県出身、卓球の吉村和弘(よしむら・かずひろ)を紹介する。

若い才能が次々と現れる卓球界。吉村和弘もそのひとりだ 【スポーツナビ】

 若い才能が次々に開花する日本の卓球界にあって、この選手もまた近年急成長を遂げたひとりである。現在、国際卓球連盟(ITTF)の世界ランキングで日本男子の4番手(2019年9月時点、以下同)につける吉村和弘だ。

 今年4月、ハンガリーで開かれた世界選手権で初の日本代表入り。わずか16歳(当時15歳)にして世界のトップ5に名を連ねる張本智和や、リオデジャネイロ五輪男子シングルス銅メダリストの水谷隼らとともに、憧れの大舞台に立った。前年の2018年5月にはワールドツアー・香港オープンでプロツアー初優勝。この成績が世界選手権の代表選考に大きく影響した。

 だが、吉村の名を一躍メジャーにしたのは17年1月の全日本選手権だ。

 シングルス8強を目標に臨んだ同大会で、自身初の決勝進出を果たした吉村は当時、歴代最多の9回目の優勝がかかっていた水谷と対決。全日本王者から1ゲームしか奪えず敗れはしたものの、準優勝という見事な成績を挙げた。この大会で吉村はノーマークで決勝まで勝ち上がってきたダークホースとして、強烈なインパクトを残した。

憧れの兄とスパルタの父

3歳年上の兄・真晴に憧れ、追いかける卓球人生だった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 吉村が頭角を現すまで、卓球界で「吉村」といえば3歳上の兄・真晴だった。

 弟の和弘も全日本選手権のジュニアチャンピオンになるなど、将来を嘱望される選手のひとりではあった。だが、真晴にはそれをはるかに超える、リオ五輪男子団体銀メダルや、翌年の世界選手権で石川佳純と混合ダブルス金メダルといった輝かしいキャリアがある。さらに全日本選手権でも、高校3年生だった12年に水谷を破り優勝する大快挙を成し遂げている。

 吉村にとっても兄は憧れの存在であり、兄の活躍が刺激となって自身も頑張ってこられたのだという。

「僕は三兄弟の真ん中で、3人とも父のもとで卓球を始めたんですけど、兄は小さい頃からすごくて、小学4年生の時にカブ(小学4年生以下)の部で全国優勝しました。その頃、僕と弟は兄のサブという感じでした」

 父である弘義さんの指導は厳しかった。いわゆるスパルタというやつだ。

 そのことを物語るエピソードには、例えば「練習で凡ミスをすると球拾い用の網の柄で足をパシンとやられた」「その日の練習がダメだと卓球場からの帰り道、自宅まで30〜40分の夜道を歩かされた」「車の助手席に座るとお説教されるので、兄弟3人で後部座席を争っていた。手が飛んでくることも日常茶飯事だった」など枚挙にいとまがない。

 特に基本にうるさかった父は日常生活でもさまざまなトレーニングを課し、「風呂に入っても湯船の中で手首をいろいろ動かすトレーニングをしました」と吉村は振り返る。吉村兄弟といえば手首の使い方がうまく、弟の和弘はバックハンド、兄の真晴はサーブの“妙手”だ。

 そのことについて、「子どもの頃のトレーニングのおかげで、手首が強くなったんじゃないかと思います。強いだけでなく軟らかさもあるので、手首がしなるんです。他の選手を見ていると、あまり手首を使えていないなと思うことがよくあります」と吉村は分析する。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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