スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「ソフトバンク希望」尊重して手を引いた周東とリチャード 批判された捕手2人指名 元巨人スカウト部長が明かす秘話

永松欣也

指名したかった周東佑京(写真左)とリチャード(写真右) 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2017年から2018年まで巨人のスカウト部長を務めていた岡崎郁氏に選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

ナンバーワンはやっぱり清宮

2017年の目玉は何といっても清宮幸太郎(早稲田実業)だった 【写真は共同】

 スカウト部長として迎えた初めての年。毎年年明けの時点で既に180人ほどの候補者がリストアップされていますが、担当スカウトから「見てください」と言われた選手は全員見にいきます。見てもいないのに良いも悪いも判断できないですし、担当スカウトが推す選手を見るのがスカウト部長の仕事ですから。それも野球シーズンである3月から10月までの半年の間に見ないといけません。1位、2位クラスの選手にもなれば複数回見ることになりますし、日によっては1日に3人も4人も見ることもありました。

 スカウト活動は毎日移動です。ユニフォームを着ていたときは移動もホテルも全部手配してもらっていましたが、スカウトは全て自分で手配しなければいけません。その辺のことは経験してみないと分からないことだったというか、色々な面で勉強になりましたし、スカウトの大変さが良く分かりました。

 この年の巨人の1位は早稲田実業の清宮幸太郎(日本ハム)でいきました。実力はもちろん、持っているスター性も含めて彼がこの年のナンバーワン。正式に清宮1位でいこうと決まったのはドラフト直前にGMが本社に報告して決まったと思いますが、暗黙の了解というか、スカウト内では結構早い時期から「今年は清宮」という空気にはなっていました。

 この年は清宮の他にも、同じようなタイプの高校生左バッター、履正社の安田尚憲(ロッテ)、九州学院の村上宗隆(ヤクルト)がいました。競合必死の清宮を避けてどちらかを一本釣りするという戦略も当然考えられましたが、それでも清宮でいったのは、球団が「例えクジになっても一番良いと思った選手を指名しよう」という方針にちょうど変わる時期でもあったからです。それまでの巨人はその年のナンバーワンを避ける傾向がありましたから。

 プロ野球では「スター性」という要素も大事になります。そこに実力が伴えば「スーパースター」になります。そういう選手は毎年いるわけではありません。個人的には村上を一番評価していましたが、そういったスター性も加味するとこの年のナンバーワンはやっぱり清宮で間違いなかったと思います。

足の速さとリーダーシップも魅力だった村上

 私が村上を評価した理由は、藤崎台球場というプロも試合を行う球場でライト最上段に2打席連続で打ち込んだバッティングはもちろんですが、もう一つは足の速さでした。彼は股関節の回転数が速くて意外に足が速いんです。乱暴な言い方をすると、私は野手の一番の指標は足の速さだと思っています。足が速いというのは運動能力が高い、運動神経が良いということですから。そういった意味でも、この3人の中では村上が一番身体能力的にも優れていると見ていました。

 それに加えて、村上にはリーダーシップもありました。キャプテンを務めていて、練習ではランニングで先頭を走る、ベースランニングも率先して先頭を走る。そういった点も魅力でした。

 ただ3年時に甲子園に出ておらず、「甲子園のスター」という感じではなかったですよね。知名度的には清宮、安田の方が上というのはありました。

 結果論でいえば1位は村上でいくべきだったと言われるかもしれませんが、あの年は「清宮ではなくて村上でいきましょう」と言える雰囲気、空気ではなかったですよね。あれで「どうしても村上です!」と私が言えていたならば、それはただのへそ曲がりですよ(笑)。

 結果、清宮には7球団が競合しました。巨人はそれを外してしまいますが、外れでまだ村上が残っていました。「よし!」と思いましたけど、やっぱり他球団の評価も高くて村上にも3球団が競合。クジ順が先のヤクルトに当たりを引かれてしまいました。こればっかりはもう仕方がないですね。

 もし村上が獲れていたら、巨人ではキャッチャーとして育てるつもりでした。過去には阿部慎之助や城島健司みたいな打てる選手もいましたけど、とはいえキャッチャーは負担が大きなポジションです。村上がキャッチャーをしながらも三冠王が獲れたかといわれると、それはちょっと分かりません。でも少なくとも、入団して直ぐにコンバートということは考えなかったと思います。

 ヤクルトが早めに内野にコンバートしたときは「もうちょっとキャッチャーとして育ててみてもいいのになぁ」と思いましたけど、中村悠平という正捕手がいたから思い切ってコンバート出来たのかもしれないですね。キャッチャーとしての可能性も捨てがたかったですけど、早めに打つ方に専念できたということを考えれば、村上にとっては良い球団に入ったと言えるのかもしれないですね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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