イチロー氏が「頭を使っている」と称えるブリュワーズとは? 無名の選手「アベレージ・ジョーズ」たちがエリート集団に挑む
「アベレージ・ジョーズ」とは?
昨年8月、ドジャースの取材でミルウォーキーを訪れた。試合後、ブリュワーズのパット・マーフィー監督が会見を行う会場に入ると、そこは大学の階段教室のような構造になっていて、そもそもメディアの数が少ないということもあるが、監督の机がある下から見上げると、記者全員の顔がよく見えるようだった。
そんなことを求められたのは初めてだったが、簡単に自己紹介をして「よろしくお願いします」と伝えると、「パットだ。こちらこそ、よろしく」と笑みを返してきた。
瞬時に人を魅了する、親しみやすさを覚えたが、そのマーフィー監督は、曰く「誰も聞いたことがないような選手たち」を率いて、ナ・リーグの優勝決定戦まで勝ち上がってきた。
もはや広く知られているが、彼は自分のチームを「Average Joes (アベレージ・ジョーズ)」と呼ぶ。アベレージとは平均。ジョーというのは、アメリカで人気のニックネーム。つまり、“極めて平均的な選手たち”ということになるが、元々は映画「ドッチボール」(2004年)に由来する。
映画は、潰れそうな「アベレージ・ジョーズ」というスポーツジムを立て直すため、寄せ集めのメンバーでドッジボール大会に参加して勝ち抜いていくという下剋上ストーリーだが、今年7月、ドジャースを敵地でスイープしたあとでマーフィー監督が自分のチームについて、「アベレージ・ジョーズ」と形容したことで、認知されるようになった。
当然、選手らが監督につけたニックネームは、「ドッジボール」でコーチを務めるパッチーズ・オフーリハンにちなんで、「パッチーズ」。
確かに、大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマン、山本由伸、ブレイク・スネルといったスター選手が集うドジャースと比べれば、ブリュワーズには無名選手が多い。年俸が1000万ドルを超えているのは、リース・ホスキンスとクリスチャン・イエリチのみ。
捕手のウィリアム・コントレラス、エースのフレディ・ペラルタ、クローザーのトレバー・メギルら好選手もいるが、今年デビューしたジェイコブ・ミジオロウスキーが、誰よりも目立つ時点で、彼らの全米的な知名度が知れる。
2021年にサイ・ヤング賞を獲得したコービン・バーンズ、オールスターに6回選ばれているジョシュ・ヘイダー、ヘイダーの後を受けてクローザーになったデビン・ウィリアムスらを次々と放出。2024年にチームの本塁打、打点王だったウィリー・アダメズとの再契約も見送った。
結果、“誰も聞いたことがないような選手たち”の集まりになったのだが、遊撃手のジョセフ・オルティス、三塁手のケーレブ・ダービンら、先ほど名前を挙げた選手らのトレードの見返りとして獲得した選手らが、成長し、いまのチームを下支えする。
※リンク先は外部サイトの場合があります
※フォローすると試合の情報などを受け取ることができます。(Yahoo! JAPAN IDでログインが必要です)
詳しくはこちら
ブリュワーズが97勝もできた理由
今季、6試合戦って、一度もブリュワーズに勝てなかったドジャースのデイブ・ロバーツ監督はまず、「ピッチャーは、先発もリリーフもいい。守備も基本に忠実だ。彼らはそうして失点を防いでいる」と話し、続けた。「オフェンスは、ホームランこそ少ないが、盗塁、バント、ヒットエンドランといった細かいことができる」。
ファンダメンタルを大切にし、スモールベースボールをやっている――と言いたいのだろうが、それ以上に、この言葉こそ、的確にブリュワーズ野球を言い表している。
「いまのMLBの野球は戻りつつあると思うんですよ。頭を使わなきゃできない、考える野球に。例えば、直近で見た相手ではブリュワーズがそんな野球をしていました」
7月末の米野球殿堂入りセレモニーの際、イチローさん(マリナーズ会長付特別補佐権インストラクター)がそんな話をして、“頭を使っているチーム”として、ブリュワーズを挙げた。
「やっぱり野球って、知恵を絞って、考えて、自分の能力を高めていく競技。ただ走るのが速い、肩が強い、速い球を投げるだけでは測れない」
その言葉を後日、マーリンズ時代にイチローさんとチームメートだったC・イエリチに伝えてみた。
するとまず、「そんなことを言っていたの?」と驚き、頬を緩めた。
「なんか、すごくうれしいな。イチローにそんなふうに言ってもらえて」
ただ、「データを疎かにしているわけではない」とイエリチ。
「いろんな分析がチーム内で行われている。でも、それに頼るのではなく、スモールベースボールというか、無死二塁なら、確実に走者を三塁に進めるような打撃を試みるし、1死三塁なら、内野ゴロでもいいから、確実に1点を取れるような打撃を心がける。守備でももちろん、ファンダメンタルを大切にして、カットマンに返すとか、そういうことも徹底している」
それぞれの長所をどう掛け合わせるか。
「そうだね。うまくブレンドすることが大切だ」