MLBポストシーズンレポート2025

「勝利投手が3本塁打」打者・大谷翔平はなぜ目を覚ましたのか? “ポストシーズン史上最高”異次元の男に鳥肌が立つ理由

丹羽政善

MVPのトロフィーを受け取り、笑顔を見せる大谷翔平 【Photo by Sean M. Haffey/Getty Images】

驚愕の1試合で3本塁打の伏線

 さすがに3発目は、快音が響き、打球が高く舞い上がった瞬間、鳥肌が立った。

「これも、行くのか?」

 七回、1死走者なしで打席に入った大谷翔平。後がないブリュワーズは、クローザーのトレバー・メギルをつぎ込み、「絶対にもう1点もやれない」という気迫を、その起用に滲ませた。

 しかし、大谷の一発で5対0。97勝を積み上げ、リーグ最高勝率をマークしたブリュワーズの1年が、脆くも足元から崩れた。

 ベースを一周する間、総立ちの客席からは、「M・V・P!」、「「M・V・P!、「M・V・P!」というコールが沸き起こり、ダグアウト、ブルペンのチームメートも「信じられない」という表情を隠さなかった。

 もちろん、伏線があってのこと。初回、先発の大谷は、先頭打者を四球で歩かせたものの、2番以降を三者三振に仕留めた。その裏、先頭で打席に入ると、ホセ・キンタナのスラーブを捉え、右翼席上段へ先制本塁打。先発した試合で大谷がリードオフホームランを記録したのは、レギュラーシーズンも含めて始めてだった。

 四回の2打席目は、2死走者なしで打席に入ると、2番手のチャド・パトリックのカッターを捉え、右中間のウェービングルーフを直撃。ドジャー・スタジアムのローカルルールで、屋根に当たった打球は場外本塁打となるため、この日2本目の本塁打は、同球場史上8本目の場外弾となった。不運にもパトリックはこの日、4イニングを投げ、5奪三振と好投したが、唯一許したヒットが、この本塁打だった。

 ちなみに右翼への場外弾は今季のレギュラーシーズンが終了した時点で、ウィリー・スターゲルが(パイレーツ)1969年8月5日と1973年5月8日に記録した2本だけだったが、今年10月8日にはカイル・シュワバー(フィリーズ)も山本由伸(ドジャース)から放っており、ポストシーズンだけで2本目となった。

 打ってもおかしくない2人ではあるものの、9月以降、ボールの抗力係数が下がっており、ポストシーズンでは飛ぶボールが使われている可能性もありそう。それはポストシーズンの試合球を入手してから検証したいが、いずれにしても、1本目と2本目の本塁打は、ともに打球初速が116マイルを超えており、1試合で打球初速116マイル以上の本塁打を2本以上放ったのは、2015年にSTATCASTが導入されてからは、大谷が初となった。

抗力係数の変化(2016〜)※抗力係数が高い方が、縫い目が高く、ボールが飛ばないとされる。もちろん、反発係数も飛距離に影響する 【参照:Baseball Savant】

 大谷は投手として10奪三振をマークしたが、二桁三振、3本塁打を記録したのもMLB初。

 まさに、記録ずくめの試合となり、大谷はこの日のパフォーマンスがものをいってMVPに選ばれたが、昨日まで、地区シリーズ以降の7試合、打者としては、ヒットわずか3本、14三振と低迷。大谷自身、「ここまであまり打てていなかった」と振り返ったが、この日1試合だけで3本塁打とは――。

7回にこの試合3本目となる本塁打を放ち、歓喜のリアクションを見せる大谷翔平 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

 突然調子が戻るとは考えにくいが、これまで、結果にはつながっていなかったが、紙一重だったのか。あるいは、徐々に構えがしっくりし、見えた方が良くなってきていたのか。だとしたらそれは、いつぐらいからそういう感覚が戻ってきたのか。

 そこを問うと大谷はまず、「すごい、感覚がいいなというのは、シーズン中も言ったかと思うんですけど、今シーズンはなくて、そのままポストシーズンに入った」と話し、55本塁打を放ちながらも、自分の打撃のバロメーターである「構えや見え方」が、今年はしっくりせず、いまもそういう状態であることを仄めかしたが、それでも変化を口にした。

「必ずしもいいアプローチのときだけ、ヒットになるわけではない。昨日みたいに、崩された打席の中でも、ああいうふうにライン際に残ってくれたり、っていうのは、自分がいい形で待てているのからなのかな」

 確信とまでは言い切れないが、昨日の三塁打には手応えがあった。

 三塁打を打つ直前も、外角低めの難しい球をファールしており、あれもフィリーズ戦なら見逃していたかもしれない。いずれにしても大谷にとって、あの打席が、ターニングポイントとなったのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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