MLBポストシーズンレポート2025

山本由伸のMLB初完投につながった修正ポイントとは? 大谷翔平の打撃が崩された要因をデータから探る

丹羽政善

日本人初のポストシーズンでの完投勝利を挙げ、観客に手を振る山本由伸 【Photo by Patrick McDermott/Getty Images】

フィリーズ戦からどんな修正をしたのか?

 試合後、会見に向かうためクラブハウスを出た山本由伸(ドジャース)。そこには選手の家族がいて、山本に気づくと、「ヨシ〜!」という声が飛び交い、割れんばかりの歓声に包まれた。中にはハイファイブを求める人もいて、山本はそれに応えながら、会見場へ急いだ。

「やばい、バスが11時出発なんですよ。間に合うかな」

 もう、あと20分しかなかった。

「せめて手を洗いたい」

 完投したことで山本は、試合が終わってから通常のトリートメントを開始。その後、すぐに会見に呼ばれたため、シャワーを浴びる時間もなかった。
 その完投――。ポストシーズンでは、2017年にジャスティン・バーランダーが、ア・リーグ優勝決定戦で記録して以来。1点こそ取られたが、走者を得点圏に進めることなく完投したのは、2010年にロイ・ハラデーがノーヒット・ノーランを記録して以来。

 会見場まで一緒に歩きながら、「九回も行けるか? と聞かれたのか」と聞くと、「いや、少しミーティング(九回の攻めについて)しましたけど、何も言われなかったので」とニヤリ。

 もちろん、本人にとっても完投はMLB移籍以来初。それを大舞台でやってのけた。

「こっちにきて初めてだったので、すごく達成感がありましたが、チームの勝ちに貢献できたので、それが一番うれしかった」

 ところで、前回のフィリーズ戦。山本はカーブとスプリットで1球も空振りを取れなかった。その前のレッズ戦では、カーブで7つ、スプリットで2つ。割合では42.9%だった。

 そもそもフィリーズ打線は、カーブ、スプリットにほとんど手を出さなかった。山本も「相手の待ち方も一つあったと思う」と話し、それが徹底されていたことを仄めかしたが、昨日の会見では、修正に自信を覗かせた。

「どんな待ち方をしても、いい球だったときは、やっぱり空振りが取れたりすると思うので、前回の試合は試合の中で明らかにボール球だったり、ちょっとボール球が大きく外れたり、細かい技術ですけど、いろいろ気になるところがあったので、それを試合の中で修正できなかった。でも、ここ1週間でしっかり練習しましたし、明日は自信をもって臨める」

 言葉通り、この日の試合では、スプリットで8個の空振り(40%)を奪い、カーブは2つ(17%)だったが、4シームで4つの空振りを奪う(27%)など、安定していた。

 なによりこの日は、四球を一つ出したものの、3ボールになったのは3回だけ。四球が少ないことが必ずしも制球力の高さを示すわけではないが、相手がボール球を振った割合が40%。山本のキャリア平均は30.3%。リーグ平均が28.4%なので、もちろん高い比率。山本はストライクゾーンからボールになるような、相手が手を出したくなりそうなところに、見事にボールを操った。

「立ち上がり、投げていてすごく積極的にきているのを感じた。そこで有効な球をいいところに投げていけた。そういったところが(その数字に)つながったかなと思います」

 相手の反応を見つつ、「気になるところ」を修正した結果だった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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