卓球五輪代表を狙う吉村和弘 ダークホースから正真正銘の本命へ

高樹ミナ

東海村は卓球人・吉村の原点

故郷・東海村のことや、男手ひとつで育てた父、憧れの兄への思いについて、笑いを交えながら話す 【スポーツナビ】

 そんな卓球親子の思い出が詰まった吉村の故郷は茨城県北部に位置する那珂郡東海村だ。

 中学からはかつて卓球の強豪として名を馳せた青森山田中に進学したため、東海村で暮らしたのは小学6年生までだが、祖父お手製の卓球台が置いてあった実家やその卓球台で遊び感覚で始めた卓球の楽しかったこと、6歳から兄と通ったスポーツ少年団の東海ジュニア卓球クラブや、クラブが休みの日に父と特訓を積んだ公民館などをよく覚えているという。東海村は卓球人・吉村の原点なのだ。

 実家は現在、茨城県南部の土浦市に移されたが、「東海村は自分の生まれ育った場所ですから思い入れがあります。今年6月に結婚した妻もドライブに連れて行って、ここが僕の故郷だと紹介しました」と吉村。さらに「茨城県はやはり納豆がめちゃめちゃ美味い。僕、納豆が大好きなんです。果物もおいしいですね。あと、手焼きせんべい。お気に入りの店があって、そこの塩せんべいはいくらでも食べられちゃいます」と、うれしそうに故郷の美味を語る。

 そして、自分を仕込んでくれた父への思いもこう口にする。

「小学生の頃は卓球がつらいとしか思えなかったけど、今は父に感謝しています。今日の自分のプレーにつながる基礎を作ってくれたのは父ですから。基本にうるさかったおかげで、その後、新しい技術も身に付けられたのだと思うし、あんなに毎日怒り続けるのにも体力が必要ですから、大変だったと思います。今思えば、僕ら兄弟に強くなってほしい一心だったのでしょうし、その気持ちがとてもうれしいです」

 人一倍、卓球愛の強い父は土浦市で卓球ショップと卓球場を営んでいる。3人のわんぱく坊主を男手ひとつで育てた父の楽しみは息子の試合と活躍を見ることだ。

五輪のし烈な代表争いに勝つ

現在、日本男子ではランキング4番手につける吉村。まずは3番手の水谷との差を詰めていかないといけない 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 国際卓球連盟が毎月発表する世界ランキングで吉村は34位。前月の43位から9つ順位を上げた。

 日本男子の中では4番手。3番手は世界ランキング13位の水谷、2番手は同11位の丹羽孝希、トップは同5位の張本と上位3選手から離されているのは否めない。そんな吉村の目下の目標は、2020年東京五輪の日本代表メンバーに入ることだ。

「3番手の水谷さんとの差が大きいので、まずはそこを詰めていかなくてはなりません」

 卓球競技の代表枠は個人戦(シングルス)2枠、団体戦3枠で、個人戦に出る2人が団体戦メンバーも兼ねる。したがって、東京五輪の代表メンバーに選ばれるのは実質3人だ。選考基準は世界ランキングで日本人の上位2人と、もう1人は世界ランキングやダブルスのペアを考慮した上での日本卓球協会強化本部推薦となる。そのため吉村も、世界ランキングに直結する国際大会で、1試合でも多く勝つことを強く意識している。

 特に吉村の場合、本戦から出場の水谷や丹羽、張本と違い、予選を突破しなければ本戦に進めないため、試合数をこなせるタフさが必要だ。

東京五輪の卓球代表選手発表は、来年1月。吉村は全力でその座を狙いに行く 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「予選でいい試合をした翌日、疲れが抜けず本戦で負けてしまうことがあるので、フィジカルを鍛えるトレーニングや、疲労を残さないコンディショニングに取り組んでいます。

 あと、メンタル面の強化も課題です。世界選手権の時、初めて日本代表に選出されたのに直前のワールドツアーで勝てない試合が続いて、プレッシャーで食事も喉を通らず、体重が4〜5キロ減ってしまいました。でも、そういった苦しい局面を乗り越えて大会本番では悔いのない試合ができた。その経験のおかげで精神的にかなり強くなれたし、もっと強い自分になりたいと思っています」

 現在23歳の吉村は結婚後も海外遠征続きだが、1歳上でしっかり者の妻の献身のおかげで「卓球に集中しやすい生活ができている」という。

 東京五輪の卓球日本代表選手の発表は2020年1月6日。運命の瞬間まで約3カ月、新しい家族のためにも猛チャージをかけ夢の五輪出場を狙う。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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