連載:シント=トロイデン買収の真相

【ノンフィクション】シント=トロイデン買収の真相 第1回 動き出した欧州クラブ買収計画

飯尾篤史
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ベルギー1部のシント=トロイデンVVをDMM.comが買収した計画の始動から今夏まで、激動の3年半の舞台裏に迫った 【(C)STVV】

ベルギー1部のシント=トロイデンVVをDMM.comが買収した計画の始動から今夏まで、激動の3年半の舞台裏に迫った。

日本サッカーの強化策を語り合った吉祥寺の夜

 リオデジャネイロ五輪の開幕を2カ月後に控えた2016年6月、昼間の熱気がなかなか引かずにいたある夜のこと――。

 吉祥寺駅前の細い路地にある商店街、ハーモニカ横丁で4人の男が酒をくみかわしていた。

 FC東京のGM(ゼネラルマネージャー)である立石敬之、立石の大学時代の後輩で、サッカー関連企業の代表取締役を務める山形伸之、山形の会社が運営するフットサルコートでコーチをしている倉田曜矢、倉田の都立久留米高サッカー部時代のチームメイトで、DMM.com(DMM)の事業部本部長の緒方悠である。

 4人に共通するのは、無類のサッカー好き、ということだった。

 そこで立石はビールジョッキを片手に、“いつものように”自身の思い描く夢を熱っぽく披露した。それは、日本サッカーを強くするためのアイデアだった。

 日本人選手のヨーロッパ移籍は簡単ではない。それに、運良く移籍できたとしても、出場機会を得られず、志半ばで帰国する選手も少なくない。だから、ヨーロッパの中堅リーグのクラブを買収し、ヨーロッパにおける日本サッカーの拠点となるクラブを作れないものだろうか。

 ヨーロッパで活躍するためのファーストステップになるような、それでいてヨーロッパで再起を誓う選手のための受け皿にもなるクラブ。そこに、選手だけでなく、指導者やメディカルスタッフを送り込む。さらには、フロントスタッフも在籍して、ヨーロッパの最先端でサッカービジネスを経験する。

 将来的には、日本代表やなでしこジャパンがヨーロッパ遠征をした際、そのクラブで合宿を張る。そんなことが可能になれば、日本サッカーを強くすることができるのではないか……。

 それは、FC東京の強化担当者として長友佑都や武藤嘉紀のヨーロッパ移籍に関わり、ヨーロッパのクラブと交渉を重ねるなかで温めたプランだった。

 立石はそんな夢を、大学の後輩である山形に何度となく話していた。そんな飲みの席に、あるとき、山形の紹介で倉田が加わるようになる。立石のアイデアを知った倉田は「自分の友人が勤める会社なら、その夢を実現できるかもしれませんよ」と言って、旧友である緒方を紹介した――こうした縁で開かれた飲み会だったのだ。
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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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