バスケW杯2019特集
- 杉浦大介
- 2019年8月11日(日) 14:25

「自分が成功すれば、後に続く後輩たち、アメリカに来たいと思う選手、そして実際に来る選手が増えるんじゃないかなとアメリカに来る前から思ってました。他の選手たちにどれだけ影響しているかは分からないですけど、アメリカに行きたいと言っている選手が増えているという話は聞いています。多少なりとも自分のやってきたことが、下の世代にもつながっていれば、うれしいなと思っています」
ジョージ・ワシントン大での4年目のシーズンが始まる直前のこと。いつも聡明な渡邊雄太が、目を輝かせながらそう述べていたのが昨日のことのように感じられる。あれからたった2年弱———。
昨季、渡邊はメンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結び、日本人史上2人目のNBAプレーヤーになった。そして、本人の言葉通り、今夏のサマーリーグには彼の後を追いかけるように合計4人の日本人選手が参戦。これまで多くの日本人選手が「NBAを目指す若手選手の登竜門」と呼ばれるサマーリーグに挑んできたが、今回の人数はもちろん史上最多である。ラスベガスのコートで躍動した渡邊、馬場雄大、比江島慎、八村塁の姿を見て、日本バスケットボールの本格的な“夜明け”を感じたファンは多かっただろう。彼らがそろって出場する8月31日に開幕するワールドカップ(W杯/中国)、来夏の東京五輪が、極めて重要な舞台となることも間違いあるまい。
日本最高の素材・八村、米国での評価はこれから

中でも新時代の中心になるのが、“真打ち”と呼べる存在の八村であることに誰も異論はないはずだ。昨季までゴンザガ大のエースとして全米にその名を轟かせた俊才は、今年度のドラフト1巡目全体9位でワシントン・ウィザーズに入団。サマーリーグでも3試合で平均19.3得点、7リバウンド、1.7ブロックという評判通りの活躍で、大会のセカンドチーム(=オールスターチームのNo.2)に選出された。
その強靭な体躯(たいく)と攻撃面の多才さは間違いなくプロレベル。特にアメリカ東海岸ではレギュラーシーズン開幕後も注目選手の一人になるだろう。
「八村がウィザーズから指名されたのを見て、ポール・ピアースがボストン・セルティックスから全体10位指名を受けた1998年のドラフトを思い出した。ピアースがトップ3で指名される選手だと評価していたセルティックスは、ドラフト前のワークアウトに招待しなかった。同じように、ウィザーズが八村をワークアウトに呼ばなかったのは、全体9位まで残っているとは思わなかったからではないか」
サマーリーグでのプレーを見て、NBAのあるスカウトがそんな風に述べていたのが印象深い。リーグ史に残るスーパースターであるピアースと八村を同等の実力者と捉えているわけではなく、あくまで状況が似ているということ。それでもそんな比較話を聞いて、“ドラフトロッタリー指名”という八村が踏み入れた領域のすごさを改めて実感する人もいるのではないか。
このスカウトは八村を極めて高く評価していたが、一方で“ドラフト全体9位指名は過大評価”と見ている関係者が少なからずいることも記しておきたい。来季、21歳の日本人ルーキーは実際にNBAのコート上でその真価を示さなければいけない。そして、日本代表のエースとしても、世界レベルの戦いに足を踏み入れる母国を引っ張ってもらわなければいけない。日本が生んだ最高の素材にかかる期待と重圧は大きい。それゆえに、今後の一挙一動が本当に楽しみでもある。