【野球小説】栄冠は監督にも輝いてほしい 第3回 夏のベンチ入りメンバーを決める
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写真はイメージです。本文とは関係ありません 【写真:アフロ】
6月といえば、通常、多くのチームが追い込み時期と位置付け、夏を乗り切る体力と精神力を身につけるべくハードな練習を行ってきた。ただ、近年はその流れに少し変化が見え、コンディション重視、フレッシュな状態で夏へ入るというチームが増えている。酷暑の影響に加え、指導者のチーム作りに対する意識が多様化してきた結果だろう。
もっとも、低迷続きの大阪天栄では6月になったからといって、5月までの練習と大きく変わることはなく、変化といえば毎日の練習の最後に50メートルダッシュ10本が加わった程度。佐伯は日々の練習について就任以来、思うところは多々あったが、メニューや進め方について自身の考えを主張することはなかった。練習は昨秋以降、実質、監督代行として選手を指導してチームを見てきた部長の有本公寿が仕切っていたからだ。
それでも部長との関係は、ひとまずは落ち着いた形になり、選手も大人の対応を見せ、2人の指導者、それぞれの指示を聞き分けるようになっていた。当初、佐伯に対して尖った態度を見せていた有本とすれば、新卒で赴任してきた“青年”に、自身もその気があった監督の座を奪われた不満は残りながら、決定は理事長が下したもの。佐伯に当たることはさすがに大人げないと思い直した点が1つ。また、残り少ない高校野球生活を送る3年生に対し、野球に集中させてやらなければ……という教育者としての思いが強まったことで、佐伯に対する態度が軟化していった。
選手たちは選手たちで、突然の新監督誕生に戸惑い、一時は多くの選手から不満の声が漏れたが、選手間ミーティングをすると、徐々にそれらの声がトーンダウンしていった。やはり「夏が迫るこの時期に、こんなことでゴタついてもいいことは何もない」と言った、ある3年生部員の冷静な声に多くの選手がうなずいたからだ。さらに言えば、新監督となった佐伯の人柄や指導姿に負の感情を増長させるものがなかったことも、三者の関係を落ち着かせる一因となった。
その佐伯は4月からの練習では1、2年生中心のいわゆる“Bチーム”を見ることがほとんどだったが、それはそれでいいと考えるようになっていた。「下級生たちの気持ちをつかんでおけば新チームになってからは今よりやりやすくなるはず」と、考えていたからだ。また、有本に対しても、昨秋から監督代行として深く関わってきた主に3年生たちとの関係を思い、「夏までは任せて思い切りやってもらえば新チームからは本来のポジションで働いてくれるだろう」と考えるようになっていた。そう思うと気持ちが整理され、随分と気分的にも楽になったものだった。
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