バルサやレアルが日本人に注目する訳
「半分偶然で半分必然」な移籍の裏側

久保建英の移籍で生じた“番外クラシコ”

レアル・マドリーが久保建英を獲得したことはスペインでも大きな話題になった
レアル・マドリーが久保建英を獲得したことはスペインでも大きな話題になった【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 レアル・マドリーが久保建英を獲得したことはスペインでも大きな話題になった。スペイン人の関心を呼んだのは、彼がバルセロナの下部組織出身でバルセロナに加入すると思われていたところをレアル・マドリーが横取りをしたからだ。レアル・マドリーとバルセロナのライバル意識はグラウンド内だけにとどまらない。レアル・マドリー寄りのメディアが久保のタレントを絶賛し、バルセロナ寄りのメディアが久保の年俸の高さに眉を潜めているのには、そんな“番外クラシコ”という背景があったからだった。


 そんな矢先、今度はバルセロナが安部裕葵を獲得したニュースが飛び込んで来た。こちらのインパクトは小さいものの、バルセロナ寄りのメディアは“久保よりも優先順位が上”という意味のホセ・マリ・バケーロ下部組織責任者の見解をわざわざ紹介している。久保の所属するレアル・マドリー・カスティージャは2部B(3部相当)のグループ1、安部の所属するバルセロナBはグループ3に所属しているため、グラウンド上でクラシコが実現する可能性はないのだが、宿敵憎しはこちらのファンとメディアの体の中を流れる血のようなものだ。


 2人の日本人の移籍が重なったのは半分偶然で半分必然である。久保が移ったのは、外国人(EU=欧州連合=外選手)の移籍が許される18歳に今年6月になったからで、安部の移籍は久保を横取りされたバルセロナがその二の舞を演じぬよう自由契約になる来年を待たず獲得を1年早めたから、とされている。と同時に、このタイミングでの安部獲得には商業的な計算もあったに違いない。バルセロナが楽天をメインスポンサーとし、今月末に日本ツアーを行うことはみなさんもご存じの通りである。


 久保の移籍にしても安部のそれにしても、日本市場へのマーケティング戦略という意味があることは否定できない。プロサッカーは入場料収入、放映権料収入、広告・商業収入を3本柱とするサッカー産業であり、レアル・マドリーとバルセロナのグローバルブランド化戦略に後者2つの柱、放映権料収入と広告・商業収入は特に重要な意味を持っている(反面、入場料収入はスタジアムのキャパシティという限界があるため伸び悩む運命)。久保や安部がトップチーム入りすれば日本サッカー界にとっては画期的な出来事だろうが、レアル・マドリーとバルセロナにとってはビジネス的な観点でもビッグチャンスの到来ということになる。

Bチームでの選手獲得は「投資」

Bチームでの獲得は投資であり、利益を回収するのはあくまでトップチーム昇格後
Bチームでの獲得は投資であり、利益を回収するのはあくまでトップチーム昇格後【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 とはいえ、誤解してほしくないのは2人の獲得の最大の理由は、サッカー的な実力と将来性が認められたからであり、マーケティング面は副次的なものにすぎないという点だ。戦力になってトップチームの勝利と栄光に貢献し、ついでに経済的な利益ももたらす――サッカービジネスのモデルとしてこれほど理想的なものはない。レアル・マドリーとバルセロナは世界有数のビッグビジネスであるからこそ、トップチームで成功できない選手、言い換えれば、視聴率アップやシャツの販売、スポンサー獲得などで商業的な旨味をもたらさない選手を獲るほど甘くない。Bチームでの獲得は投資であり、利益を回収するのはあくまでトップチーム昇格後なのだ。


 レアル・マドリー・カスティージャにしてもバルセロナBにしても新加入選手の大半が内部のユースチームからの昇格で、外国人選手など外部の選手獲得に割かれる枠は毎年2人か3人しかない。その1つを日本人として占めることになったわけだから、2人にはプライドを持って堂々と勝負してほしいと思う。


 2人の加入がさらなる日本人選手獲得につながるかどうかは、今後の久保と安部次第だろう。乾貴士と柴崎岳の活躍が日本人選手にリーガの扉を開けたのと同じである。乾と柴崎がいなければ久保と安部がここまで注目されたかどうか。日本人はリーガで通用しない、という偏見は先人によって取り除かれた。今度はビッグクラブでは通用しない、という偏見を久保と安部が壊す番である。


 レアル・マドリー・カスティージャ、バルセロナBで結果を出せば、若手日本人選手をBチームに入れて養成する、というルートができるかもしれない。Jリーグでプレーする日本人選手は違約金が安いし、2部Bには外国人枠がないから獲得しやすい。ただし、マーケティング的な観点から言えば、日本市場の開拓が商業的なメリットとなり得るブランド力の持ち主でないと旨味が少ない。そうなると、獲得に興味を示しそうなのはスペインではレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、バレンシア、セビージャくらいだろうか。


 バルセロナは17歳の西川潤(セレッソ大阪)にも目を付けていると言われている。来年2月に18歳になる彼にどこがどうアプローチするのか? 久保と安部の動向とともに注目していきたい。

木村浩嗣

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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