バルサが認めた安部裕葵の「個性」 日本屈指の若きテクニシャンの可能性は?

元川悦子

プロ3年目で訪れた千載一遇のチャンス

名門・バルセロナからのオファーという千載一遇のチャンスが訪れた安部 【(C)J.LEAGUE】

「鹿島アントラーズの安部裕葵にFCバルセロナが正式オファー」

 衝撃的ニュースが流れたのは7月3日。同日の天皇杯2回戦・北陸大戦にスタメン出場した本人は「それはなしでお願いします」と移籍に関する話を封印したというが、前々から海外志向の強い選手であるだけにスペイン行きが現実になる可能性が高い。同じ東京五輪世代の久保建英がレアル・マドリーへ移籍し、同学年の堂安律がフローニンゲンからのステップアップを模索する今、本人も「今こそ外に出るタイミング」という思いが強まっているはずだ。

 東京出身の安部は、本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)がクラブ経営に携わっている「S.T.フットボールクラブ(東京・清瀬市)」で中学時代を過ごしたアタッカーだ。そこから広島県瀬戸内高に進み、鹿島のスカウトに見初められ、2017年に常勝軍団入り。今季がプロ3年目となる。

「僕が中2から中3に上がる時に、本田さんがプロデュースするソルティーロ(・ファミリア・サッカースクール)が清瀬のクラブを買い取って、クラブ名が『S.T.フットボールクラブ』に変わった。本田さんも練習に来てくれました。彼は日本でものすごく成功している選手の1人。そういう人が身近にいたことは自分の強みになるし、励みにもなる」と本田のタフなメンタリティーを受け継ぐ男は目を輝かせる。

 尊敬する本田は21歳でオランダへ渡ったが、安部も同様の軌跡をたどりたいと以前から考えていたはず。名門・バルセロナからのオファーという千載一遇のチャンスが訪れた今、それをつかまない手はないだろう。

バルサが認めたキャラクターと素質

戦況を見極めながら的確にプレーを変えられる臨機応変さが持ち味だ 【(C)J.LEAGUE】

 高度なテクニックとパスセンス、小気味いいドリブル突破、頭抜けた戦術眼、相手の裏をかくアイデアの豊富さなど数々のストロングポイントを備える安部だが、最も目を引くのが、戦況を見極めながら的確にプレーを変えられる臨機応変さではないか。

 今回の19年コパ・アメリカ参戦中も、こんな話をしていたことがあった。

「チリ戦を外から見ていて、試合頭から素早い攻撃しかないと感じていた。僕が途中出場した時には、素早い攻撃も必要だけれど、タメを作らないといけないとも思った。矛盾していることかもしれないけれど、メリハリをつけなければ崩せないと考えたんです」

 残念ながら、思惑通りに物事は運ばず、日本は安部が入った後に2失点し、0−4で大敗を喫してしまった。だが、A代表デビューとなった大一番で試合全体を俯瞰し、自ら新たなエッセンスをチームに加えようと考え、それをピッチ上で実践すべくトライしたことは特筆に値する。

「コパ・アメリカだろうが、いつもの試合と一緒。違うのはメディアの数、見ている人の数だったり、国を背負って戦う責任だったりプレッシャーが違うだけで、自分がプレーする内容や質は練習から変わらない」と安部は弱冠20歳とは思えないほど淡々としていた。

「スポーツ選手である以上、プレッシャーというのを力に変えられるくらいじゃないとその仕事は向いていない」という発言もしたことがあるが、常に冷静に自分らしさを表現できる強心臓ぶりは、20歳時点の本田以上と言っても過言ではない。

 こうした強烈なキャラクターや選手としての資質をバルセロナも認めたからこそ、オファーに至ったのだろう。ハイレベルな個人技術やパスワークを駆使しつつ、ボールを支配し、攻撃を組み立てていくバルセロナのスタイルに、安部というプレーヤーがマッチしているのも確かだろう。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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