アーティスティックSの新星・吉田萌 射止めた「シンデレラガール」の座

沢田聡子
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第41回は愛知県出身、アーティスティックスイミング(シンクロナイズドスイミングから名称変更、以下AS)の吉田萌(よしだ・めぐむ)を紹介する。

アーティスティックスイミング界で「シンデレラガール」の座を射止めた吉田萌(写真左) 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

“萌む”(めぐむ)は草木が芽吹くことを意味する言葉だが、吉田萌はその名の通り、まさに今その実力を芽吹かせている。

 吉田は、4歳の時に地元・愛知県のクラブであるザ・クラブピア88でASを始めた。ザ・クラブピア88は、北京五輪代表の石黒由美子・松村亜矢子、2009年世界選手権代表の木村真野・木村紗野など、ナショナルチームに選手を多数輩出している名門クラブだ。同クラブで基本を身につけ、日本代表でさらに力を伸ばした吉田は、今は母校である愛知学院大学に職員として所属し、競技を続けている。

近年は五輪メダルなし…流れを変えた井村ヘッドの提案

「シンクロナイズドスイミング」と呼ばれていた時代から振り返ると、五輪で正式種目となった1984年ロサンゼルス大会から2008年北京大会まで、日本はすべての五輪で表彰台に乗り続けていた。だがそれまで全種目でメダルを獲得していた日本は、北京大会のチーム種目で初めてメダルを逃しており(5位)、続く12年ロンドン大会では初めて一つもメダルを取れずに終わっている。しかし16年リオデジャネイロ五輪では、チーム・デュエットとも銅メダルを獲得、再び表彰台に返り咲いた。

 2020年東京五輪ではデュエット・チーム両種目で銀以上のメダル獲得を目標に掲げている日本だが、17年世界選手権(ハンガリー)では4種目の五輪種目のうち3種目でライバルのウクライナに敗れ、獲得したメダルはチーム・テクニカルルーティンと非五輪種目のフリーコンビネーション(※強豪ロシアは不参加)の二つにとどまっている。

 選手の大型化が進む世界の流れに伴うこの結果を受け、東京五輪への危機感を持った日本水泳連盟AS委員会は日本代表の選考手順を変更。従来の選考会によるものではなく、コーチが推薦した有望選手を代表候補として合宿で指導、その中から大会ごとに代表を決めていく方式に変えた。選考会では、長い手足をうまく扱えない大型の選手が上位に入れない傾向があることを考慮して、井村雅代ヘッドコーチが提案したものだ。

パートナーの乾は音感の良さを評価

ともにデュエットを組む乾友紀子(写真左)は吉田の「音楽をキャッチする力」を評価する 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 日本代表でのキャリアは浅いが恵まれた体躯を持つ吉田は、選考方法変更の狙いを体現したような選手だ。

 吉田は17年世界選手権後に、ナショナルAチーム(日本代表)に加入した。翌18年6月のカナダ遠征で初めて日本のエース・乾友紀子のデュエットパートナーに起用され、続いて8月にインドネシアで開催されたアジア大会でもデュエット代表として戦うことになった。身長170センチの乾と169センチの吉田の、大型デュエットの誕生だった。

 北京五輪後から10年以上日本のエースとして代表を引っ張ってきた乾は、過去に多くの選手とデュエットを組んでいる。吉田が乾のパートナーとなったことは大抜てきといえ、「シンデレラガール」とも評された。

 吉田の長所は「双子といってもいいくらい似ている」と井村コーチが評するように、乾とそっくりの足と、音感の良さだ。

 パートナーの乾は吉田を「音楽をキャッチする力がすごくあります」と評価しており、井村コーチも「今までたくさん見てきた日本のデュエットの中で、最も二人そろって音感がいい方です。だから、体で音楽を感じるルーティンが泳げます」と期待を寄せる。

 来年に迫った東京五輪に向けては今年7月の世界選手権(韓国)が目下の目標となるが、世界選手権終了後、井村コーチはフリールーティンを新しい演目に変えようと目論んでいる。

「彼女達二人だから感じられる音感で泳ぎこなせるようなルーティンを作ろうと思っています。独特の外したような音の取り方、ありますよね。兵隊さんが歩くような(音の)刻み方がASだと思っている方にとっては『そういう曲のとり方もあるんだ』と感じるような、まるでダンスのような独特な世界観の、乗って泳いだら楽しくて素敵なルーティンができるんじゃないかなと想像しています」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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