自国開催のW杯は「またとないチャンス」 倉敷アナが語る、競技の本当の面白さ

スポーツナビ
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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第93回が6月3日、東京都港区で行われた。

 今回は『伝える目線で感じたワールドカップ自国開催がもたらすもの』というテーマのもと、フリーアナウンサーの倉敷保雄氏を招き、ラグビージャーナリスト・村上晃一さんの進行で講演が行われた。

『スカパー!』が日本サッカーに果たした役割

サッカーW杯日韓大会の決勝戦で中継アナウンサーを担当した倉敷氏を招き、講演が行われた 【スポーツナビ】

 2002年サッカーW杯日韓大会の決勝戦で中継アナウンサーを担当するなど、日本サッカーを最前線で見てきた倉敷氏。1993年のJリーグ開幕を皮切りに急速に発展を遂げていく様子を、ロケットの推進力に例え、「日本のフットボールが打ち上がっていくという状況がずっと続いていた」と語る。

「ドーハの悲劇」や「ジョホールバルの歓喜」といったW杯出場に関わる悲喜こもごも、中田英寿や中村俊輔といったスター選手の活躍など、盛り上がりの要因は多々あるものの、とあるメディアが果たした役割も大きかったという。

「『スカパー!』はセリエAの全試合放送など、それまでの衛星放送がやらなかったことをいろいろと始めていました。『世界のレベルをまず見てもらいましょう』という考えのもとにまず数をこなそうとし、試合の総放送数はW杯開幕前には3250試合にもなりました。世界のサッカーに対する文化がJリーグの誕生とともに育ち始め、『スカパー!』のアプローチとシンクロするように『僕らの代表が今度は世界を相手にしていくんだ』という意識が高まっていったように思えます」(倉敷氏)

『スカパー!』は02年のW杯でもさまざまな取り組みを実践していく。全64試合を生放送したが、各試合で一方のチームに寄った映像と、もう一方のチームに寄った映像を作った。例えばベルギー対ロシアであれば、ベルギー寄りの映像が一つ、ロシア寄りの映像が一つというように、対戦相手にも興味を抱かせ、両チームにリスペクトを払うような放送を試みていたという。

 また、スタジオチャンネル、タイムシフトチャンネル、日本代表チャンネル、ハイライトチャンネルと複数のチャンネルを展開。その日の放送を何度も再放送していた。チャンネルをつけておくことで、繰り返し何かの映像が流れるような環境を作り出し、「サッカーに触れる機会を増やしたことで競技の理解度が自然と高まり、さらに知識が増えることを楽しもうという感覚が広まっていったと思います」と倉敷氏は語る。

相手を知ることの大切さ

日韓W杯でカメルーン代表を受け入れた中津江村。当時、チームと村民との交流が話題になった 【写真:ロイター/アフロ】

 日韓W杯をきっかけとして、ユーザーに世界のサッカー情報を与え続けることで、サッカーを好きになってもらう。こうした戦略的な試みはサッカーの盛り上げにもつながっていったが、倉敷氏は現在のスポーツ報道に苦言を呈す。

「例えばテニスの錦織圭選手が準決勝で惜敗したとして、『ではもう一つの準決勝はどうなったのか』はまず報道されないですね。さらに結局『その大会の決勝では誰が勝ったのか』もあまり報道されません。勝った、負けたばかりではなく、その競技にもうすこしリスペクトを払ってもらえたらと思います。日本が誇る選手や代表チームが負けたとしても『負けました』という報道だけでは味気ない。相手選手やチームの実力はどのくらいで、日本とはどのくらいの差があったのか。世界の中で日本は今どのくらいの実力があるのかについて、識者のコメントをつけて紹介してもらえたら続けて応援する楽しみも増すと思います」

 確かに注目選手の結果は気になる。しかし、それだけを追い求めるのは、競技本来の面白さを損ねてしまっているかもしれない。もっと「相手を知ること」こそ、スポーツをなじみ深いものにするポイントだろう。

 さらに倉敷氏は、競技の面白さを深めるカギについてこう語る。

「競技の面白さは多様性だと思っています。ここでは文化的な多様性という意味です。対戦した国やその国のチームを知ったら、その国のことを知りたくなる。言葉に興味を持つ。その国に出かけようと旅をしたくなるかもしれない。そこで何を食べようか、文化は? 歴史は? 博物館を訪ねてみようか? 好奇心がむずむずする。続けていたらいつかその国の友達ができるかもしれない。自分は対戦国や対戦相手をきっかけにどこに興味を持つか、無限に好奇心を広げていく楽しさがあります。

 日韓W杯のときの中津江村(現・大分県日田市中津江村)に関するニュースは皆さんもよくご存じだと思います。カメルーン代表が合宿を行った場所で、心からの交流をした村長さんはとても有名になりましたね。でも中津江村がどこにあるのかを知らなかった方も多いのでは? こんな形で自分たちに跳ね返ってくるディスカバージャパンも、文化として素敵だと思います」

競技の理解度、リテラシーを上げたい

 競技の面白さとは、その多様性を考え広げていくことであると述べた倉敷氏。一方で違う側面からも、競技の奥深さを伝えるためのアプローチがあると力説する。

「目指したいのは、競技の理解度、リテラシーを上げることです。W杯のような大きなイベントがある時こそまたとないチャンスですし、関係者はチャンスを逃してはいけません。それぞれの競技になじみのない方にルールを覚えてもらうことも大切ですが、どれだけ奥が深いのか、知れば知るほど楽しくなることをたくさんの人に知ってもらってファンの分母を大きくするべきです。

 素晴らしい解説者が必要です。上手な中継スタッフも大切です。例えばいまのタックルにはどんな意味があるのか、驚くようなスピードと技術に裏打ちされているテクニックの素晴らしさが世界のどのレベルにあるのかを知ってもらう中継を作ることが競技の理解度に直結します。新しい知識は誰かに話したくなるものです。学校や職場、電車の中などでみんながラグビーの話をし、うわさをし、ラグビーの文化の話をしてくれたら良いですね。絶対にW杯というチャンスは逃してはいけません」

 9月に開幕する自国開催のラグビーW杯。かつてのサッカーがそうであったように、競技の良さを発信する千載一遇のチャンスがそこにはある。日韓W杯での体験をヒントに、さまざまな施策でラグビーの魅力を伝えていきたいところだ。

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