FIFAコンサルが説くラグビー発展の可能性 「強み」を生かし全体最適の絵を描こう

スポーツナビ
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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

FIFAコンサルタントの杉原氏が講演を行った 【スポーツナビ】

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第85回が6月25日、東京都港区のみなとパーク芝浦で開催された。

 今回は「FIFAコンサルタントからみる日本サッカーの現在地と日本ラグビーの可能性」というテーマで、FIFA(国際サッカー連盟)コンサルタントの杉原海太氏を招き、ラグビージャーナリスト・村上晃一さん進行のもと講演が行われた。

FIFAコンサルタントが見る日本サッカー

 FIFAの職員として、世界各国のFIFA加盟協会に対して、運営やマネジメントの助言を行っている杉原氏。サッカー界をより良くしようと最前線で奔走する、いわば普及、発展のスペシャリストだ。そんな杉原氏から見た日本サッカーの成功要因、課題、しいては日本のスポーツの特徴を紹介し、そこからラグビー発展のヒントを探った。

 日本サッカー界の大きな転機となった1993年、それまで企業スポーツであったサッカーがプロ化される形で、Jリーグが誕生した。「地域密着」を掲げ、日本各地に根付いた日本サッカーは、6大会連続でワールドカップ(W杯)出場を果たすなど、大きな躍進を遂げた。その成功要因として杉原氏は、「もちろん三浦知良さんやラモス瑠偉さんといったスタープレーヤーの存在は大きかったのですが、やはり企業スポーツしかなかった当時の日本スポーツにとって、地域密着、百年構想といった革新的なJリーグの理念と取り組みに、人々が共感したというのはすごくあったと思います」と分析する。「今までにないこと」それ自体が大きなムーブメントを引き起こした格好だ。

 しかし、大成功したが故の副産物として近年起きている問題もある。サッカー協会でいえば収益の約7割が日本代表に依存する構造や、かつては世界大会に連続出場をしていたU20世代などのアンダー世代が、世界の舞台に以前ほど頻繁には立てなくなっていること、そしてJリーグに関していえば、Jリーグのコンテンツ価値の低下が挙げられる。近年、Jリーグのクラブ数は増え続け、その数は54にも上る(J1、J2、J3の合計)。若いスター候補の海外流出と相まって、必然的にコンテンツ価値が薄まっているという。「地域ではウケるコンテンツ」と杉原氏がいうように、人気は限定的となってしまっている。

 とはいえ、世界でもまれに見るスピードで発展を遂げた日本サッカー界からは、草の根レベルでの普及、適切な育成システム、そしてプロ化なども含む強化システムを包含した全体最適の仕組み、制度の構築を学ぶことができる。そしてこのような仕組みの構築により当該競技の自立的、持続的な発展が実現できる、と杉原氏は説いた。

日本のスポーツから学ぶ競技発展のヒント

課題もあるが発展を遂げた日本サッカーから、学ぶべきことは多いと杉原氏は説いた 【写真は共同】

 普及、育成システムのヒントとして杉原氏は、「部活」を挙げた。日本の部活動は、「誰でもできる」という点でスポーツの「普及」に貢献する一方、秀でている生徒をさらに磨く「育成」の両方をカバーしている、世界的にも珍しい仕組みだという。

 しかし他方では、サッカーのユース制度や水泳の地域クラブのように、優秀な生徒を選抜し育成を重視するようなシステムも導入されている。若い世代のスポーツ選択において、部活動と並立している状況だが、「どちらかが完璧なシステムというわけではない」と杉原氏。双方を客観的に分析することは、ラグビーを含む日本のスポーツの普及と育成のシステムを考える上でのヒントとなり得ると示した。

 また競技発展のために、普及と育成に匹敵するくらい大事なことがあるという。それは、協会、リーグ、クラブ、選手といったそれぞれ利害が異なる組織がひとつの輪になり、「全体最適」を目指すことである。例えば協会が代表チームにクラブから選手を招集する際、協会の観点からすれば当然代表チームの強化のために招集に応じて欲しい所であるが、クラブ側は選手のケガのリスク、リーグ戦やクラブでのトレーニングのスケジュールとの兼ね合いで送り出すことを渋るケースもあり得るだろう。そもそも選手はクラブと契約関係にあるため、十分に理解できることである。そこで、利害が一致しない局面もある当該競技の関係者の間で、できるだけ多くの人が納得できるような制度をあらかじめ設計しておくことで当該競技の発展という大きな目的、すなわち全体最適が達成できるという。

 そして、その輪の中には「企業」も含まれていることを忘れてはならない。ラグビー、Jリーグ、プロ野球に代表されるように、資金面で日本のスポーツにおける企業の影響は大きい。「CSR(企業の社会貢献の責任)的に」チームを運営している企業もあるが、もちろんそれは企業によるスポーツへの素晴らしい貢献ではあるが、CSRの枠組みでは「そこから先」に行きづらいという傾向が見受けられる。「スポーツ発展のためには、スポーツを本気で活用しよう、投資をしよう、そのメリットがある、と企業に思ってもらえるような環境に、スポーツ界がしていくことが大事だと思う」と杉原氏。そのためには、企業にとって「も」メリットのある制度設計を考慮すべきであろうと指摘した。

ラグビー発展の可能性

関係者が輪になって全体最適の制度を設計することが、競技発展の鍵だ 【写真:アフロ】

 競技の自立的・持続的な発展を図るには普及と育成と強化を包含した全体最適を目指す制度設計が鍵となるが、要は協会、チーム、リーグなどで役割分担をきちんとして、全体最適の絵を描くことが大事になる。日本や海外には絵を描く際に参考となる他競技のモデルがあるが、そのまま取り入れるのは適切ではないと警告する。

「(各競技、各時代、各国で)環境が違うので、他のモデルのコピーアンドペーストではうまくいきません。(コンサルタントとして)いろいろな国に行って『日本はこうやって強くなったから、こうすればいい』とアドバイスをしても、環境が違うから機能しません。他競技を参考にしつつも一番重要なのは、日本ラグビーでは日本ラグビーの強みを生かしていくことかと思います」

 ラグビー発展の鍵は、自身の強みにある。この強みをうまく生かしつつ全体最適の制度を設計することで発展が図られると示し、講演は締められた。

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