コパ・アメリカ2019連載

ウルグアイ戦で得た、悔しさという手応え GS突破の可能性を拓く歴史的な勝ち点1

宇都宮徹壱

森保監督「経験するだけの大会ではない」

森保監督は会見で「経験するだけの大会ではない。日本がトップの大会でもやれるんだということを見せていきたい」とコメント 【写真:ロイター/アフロ】

「陽気な港」──日本対ウルグアイが開催される、ポルト・アレグレを直訳するとこのようになる。港があるのは間違いないが、陽気かどうかというといささかの疑問符が付く。ヨーロッパ系の移民が切り拓いたという街並みは、なるほどドイツの地方都市を想起させ、晩秋の空気も相まってどこか物憂げだ。コパ・アメリカの5会場では最も南に位置し、それゆえ気温はぐっと下がる(南半球では南下するほど寒くなる)。ここからウルグアイの首都・モンテビデオまでは車で10時間。実はサンパウロ(同14時間)よりも近い。

 6月20日(現地時間。以下同)に行われるウルグアイとの第2戦は、17日にサンパウロで行われたチリ戦(0‐4)以上に日本にとって厳しい試合となる。チリが大会2連覇の南米王者ならば、ウルグアイは最多15回の優勝を誇る。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでもグループ最高の8位(日本は28位)。ウルグアイがエクアドルとの初戦(4‐0)から中3日なのに対し、日本は中2日。さらに開催地のポルトアレグレは、ウルグアイにとって「裏庭」と言ってよい立地。日本には不利な条件ばかりがそろう。

 加えて今回のウルグアイからは、南米の強豪特有の慢心が微塵も感じられない。当然だろう、昨年10月16日のキリンチャレンジカップで3‐4と敗れているのだから。チームを率いる名伯楽、オスカル・タバレスは日本について「去年対戦した時と明らかに違うメンバーだが、それでも私は彼らをリスペクトしている。明日は100%のプレーで臨む」と語っている。余談ながら、前回の対戦ではルイス・スアレスが不在。逆に日本は、今回のメンバーでウルグアイ戦に出場していたのは、柴崎岳と中島翔哉の2人のみである。

 戦力的には明らかに格上、しかもモチベーションも十分のウルグアイに対し、日本はどう挑むのか。森保一監督の前日会見から、ヒントとなりそうなコメントを抜き出してみる。いわく「中2日ということで、何人かの選手は変わると思う」。いわく「最初から(自陣)ゴール前に人数をかけて戦うことはしたくない。勝ち点3を奪いに行きながら、勝ち点1を拾えるのであれば拾っていく」。その上で「経験するだけの大会ではない。日本が世界のトップの大会でもやれるんだということを見せていきたい」としている。

 以前のコラムで挙げた、今大会における日本代表の7つの課題。そのうち6番目の「監督の采配や選手交代は的確か?」、そして7番目の「試合状況や実力差に応じた戦いができているか?」が厳しく問われるのが、このウルグアイ戦であろう。森保監督の会見から、どこに本心があるのかを見極めるのは難しいが、私としては「経験するだけの大会ではない」という指揮官の言葉を信じたいところ。相手との実力差が明白だからこそ、ベンチワークと采配でどれだけ相手との隔たりを埋められるのか。その一点に、まずは注目したい。

≪日本代表の7つの課題≫
(1)各ポジションの世代交代は進んでいるか?
(2)チーム内の競争は健全に働いているか?
(3)監督の考えるコンセプトは浸透しているか?
(4)攻撃面でのバリエーションは増えているか?
(5)守備面での共通理解は進んでいるか?
(6)監督の采配や選手交代は的確か?
(7)試合状況や実力差に応じた戦いができているか?

歴史的な勝ち点1をもぎ取ることに成功

三好の2ゴールで2−2、日本はウルグアイから歴史的な勝ち点1をもぎ取った 【写真:ロイター/アフロ】

 試合会場は、ポルトアレグレを代表するクラブのひとつ、グレミオFBPAのホームスタジアム、アレーナ・ド・グレミオ。現地は「聖体の祭日」という祝日であったので、この日は3万3492人もの観客が詰めかけ、そのほとんどがウルグアイのサポーターで占められていた。バスで移動する間も、視界に入ってくるのはウルグアイ人ばかり。スタジアム周辺は「オー・セレステ(ウルグアイ代表の愛称)!」の掛け声とチームカラーのライトブルー、そして肉が焼ける匂いで埋め尽くされ、まさに敵地の只中にやって来たような気分である。

 この完全アウェーの中、ピッチに散った日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から岩田智輝、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉。中盤はボランチに柴崎と板倉滉、右に三好康児、左に中島、トップ下に安部裕葵。そしてワントップに岡崎慎司。初戦から6人を入れ替えたが、ベテランの川島と岡崎を起用するなど「若手の経験」を一時封印したラインナップだ。前回、フル出場だった久保建英をベンチスタートにしたのは、負荷を掛けすぎないためだろう。一方のウルグアイは、中盤の1枚が変わった以外、初戦とまったく同じ顔ぶれ。相手が格下でも、手を抜く気配はまったくない。

 試合は意外な展開で推移する。前半25分、日本は自陣でのスローインによるリスタートから柴崎が大きく蹴り込み、これを右サイドで受けた三好がスペースを切り裂くようにドリブル。ディエゴ・ラクサールを振り切ると、右足でニアに蹴り込んだシュートがネットを揺らした。しかし日本のリードは長くは続かない。29分には、エディンソン・カバーニがペナルティーエリア内で倒れたシーンがVAR判定となり、ウルグアイにPKが与えられる。これをスアレスがゴール右隅に収めて、前半は1‐1で終了。

 実のところVARの判定は、植田にイエローカードが出されたことを含めて、かなり不満が残るものとなった。それでも日本は、この承服し難い失点に対して、すぐに気持ちを切り替えることができた。後半も両者きっ抗した展開が続く中、均衡を破ったのはまたしても日本だった。後半14分、中島との縦の連係から左サイドをオーバーラップした杉岡がクロスを供給すると、いったんはGKフェルナンド・ムスレラに触れられるも、三好がこぼれ球を冷静に押し込んで、2点目を挙げるとともに再び日本がリードする。

 その後、ウルグアイは怒とうの攻撃を見せるも、日本も球際での激しさと身体を張ったブロックで対抗。しかし後半21分には、ニコラス・ロデイロからのCKにDFのホセ・ヒメネスがヘディングシュートを決め、試合を振り出しに戻す。注目された日本のベンチワークは、後半22分に上田綺世(安部と交代)、38分に久保(三好と交代)、そして42分に立田悠悟(岩田と交代)を投入。3枚目のカードを切るまでは、あくまで勝ち点3を目指していたのは間違いなさそうだ。結局、試合はそのまま2‐2で終了。日本は本気のウルグアイに対して、歴史的な勝ち点1をもぎ取ることに成功した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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