週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

松井の記録に並び、抜いたことは「日本球界にとって大きい」 大谷が考える日本人打者の可能性とは?

丹羽政善

4月21日に行われたメッツ戦でMLB通算176号本塁打を放った大谷翔平。松井秀喜さんの記録を抜いた 【Photo by Kevork Djansezian/Getty Images】

「日本の野球界にとっても大きいことじゃないかなと思います」

 4月12日、大谷翔平(ドジャース)は左中間に本塁打を放ち、MLB通算本塁打を175本とすると、これまで松井秀喜さん(ヤンキースなど)が持っていた日本人メジャーリーガーの最多記録に並んだ。試合後、そう話した大谷だが、やや漠然としていて、解釈に困った。

 その場で確認できればよかったが、その日は試合が終わってすぐに囲み取材が始まり、指定された場所にたどり着いたときにはすでに二重、三重の人垣ができ、そこからではそもそも、何を言っているのかはっきり聞き取れなかった。

 大谷の囲み取材は米メディア、日本メディアで分けて行われる。米メディアの囲みに日本メディアが参加してもいい。質問は出来ないが、それによって同じことを聞く必要がなくなり、大谷が同じことを2回答えなくてもいい。

 取材ルールといえるのはそれぐらいだが、聞けるのはせいぜいひとり1〜2問。みんな質問をしたいので、ひとりで5〜6問もしてしまうと、時間に限りがあるため聞けない人が出てくる。通常、10分もすると、広報が「あと1問!」と通告する。7分ぐらいで突如打ち切られるときもある。

 聞いたことに対して大谷がどう答えるかわからないので、確認や関連することなら、さらにもう1問——つまり、2問ぐらいまでならという暗黙の了解が、いつからか出来上がった。もちろん、強制ではないが、ある程度は仕方がない。

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大谷を取材する記者が抱く葛藤

ダグアウトで笑顔を見せる大谷 【Photo by Kyodo News via Getty Images】

 さて、となると、何を聞くか。パターンは2つ。自分なりにテーマを固めて、それに沿った質問をするか。あるいは、流れの中で大谷が話した内容を掘り下げるか。ここは葛藤である。後者の質問は他の人が聞いてくれるかもしれないが、その保証はない。一方で自分の聞きたいことを聞き逃したら、次にいつ聞けるか分からない。ということで基本的には前者を優先するのだが、松井さんの記録に並んだ夜は、なぜ日本球界にとって大きいのか、その真意を聞きておきたかった。メッセージが含まれているような気がしたからだ。

 今後、聞けるタイミングが訪れるのだろうか。そんなことがしばらく頭から離れなかったが、今回のようなケースではもう一度チャンスがある。超えたときである。その日は9日後のメッツ戦で訪れた。紫電一閃。右翼のスターリング・マルテ(メッツ)は腕を後ろに組んだまま一歩も動かず、打球方向を振り返ることもなかった。

「打った瞬間にホームランだとわかったから」

 マルテは通訳を通じてそう話したが、実際、打った瞬間にそれとわかる豪快な一発だった。

 今回も、大谷の会見は早く始まった。廊下で待機していると、30mほど先にある会見用のボードの前にユニホーム姿の大谷が現れた。広報の合図で、一斉にメディアがポジション取りのため小走りになる。なんとか最前列に陣取ると、ほとんど間を置かずして米メディアの質問が始まった。ここで、「なぜ日本球界にとって大きいこと」という質問が出れば、自分の番になったとき、その解釈をさらに質したり、別のことを聞けるが、そういう質問は出なかった。

 よって、米メディアの時間が終わると、真っ先に聞いた。

「松井さんに並んだ日、『日本の野球界にとっても大きいこと』と話したが、それはどういう意味なのか」と。

 すると大谷は、「そうですね〜」と一呼吸置いてから、「やっぱ、長打を持ち味にして打っていくスタイルというのは、サイズがないとなかなか難しいところ」と答え始めた。

 続く言葉を待つ。

「なので、そういう意味では、幅が広がるのかなというか、バッティング自体の目標の幅自体が、広がっていくんじゃないかな」

 バッティング自体の目標の幅。これがキーワードだった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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