コパ・アメリカ2019連載

ウルグアイ戦で得た、悔しさという手応え GS突破の可能性を拓く歴史的な勝ち点1

宇都宮徹壱

「実力差に応じた戦い」という点では高評価

試合後、日本のロッカールームでは達成感よりも悔しさのほうが上回っていたという 【写真:ロイター/アフロ】

 試合後の率直な感想は、「うれしい」とか「興奮した」というよりも「ほっとした」というのが実際のところ。それは森保監督がこの試合を「若手の経験」に割り切ることなく、真摯に結果を求める姿勢を貫いたことへの安堵(あんど)感であった。いわゆる「マン・オブ・ザ・マッチ」は殊勲の2ゴールを挙げた三好だろうが、ベテランの川島と岡崎の存在感あふれるプレーを抜きにこの試合を語ることはできない。川島のセーブは何度も味方のピンチを救い、岡崎の貪欲なゴールへの姿勢は三好の2点目の伏線にもなった。

 ではなぜ、この2人を初戦から使わなかったのか。この当然の疑問について、森保監督は「コパ・アメリカという世界的にも最高の大会で、経験のある選手たちに頼るのではなく、自分たちで難しい試合を戦うことで選手たちの経験につながるのではないかと考えていました」と説明している。しかしチリ戦は0‐4の大敗に終わり、次のウルグアイ戦までは中2日しかない。結果にこだわりながらチーム状態を上向かせるためには、ベテランの力が不可欠と指揮官が考え直したのは明らかである。

 試合後の日本のロッカールームでは、達成感よりも悔しさのほうが支配的だったという。「リードしながら勝てなかった悔しさは、全員あったと思います。ただ、自信を持てた部分もあったとも思います」と三好は言う。コパ・アメリカという大会が、若い選手たちにとって、またとない経験であることについては、論を俟たない。しかしながら、そこに最低限の成功体験がなければ、単なる「思い出づくり」に終わってしまう。その意味でも、このウルグアイ戦で「悔しさ」という手応えが得られたことの意味は大きい。

 先に挙げた日本代表の7つの課題のうち、6番目と7番目の答え合わせもしておこう。「監督の采配や選手交代は的確か?」については、この試合での明確な判断は難しい。後半の3枚のカードの切り方は、特段に大きな効果をもたらしたようには感じられなかった。ただし「試合状況や実力差に応じた戦いができているか?」については、大いに評価すべきであろう。チリ戦の反省を踏まえてウルグアイ相手に勝ち点1をもぎ取り、しかもグループステージ突破の可能性を拓いたのだから。こうなると24日のエクアドル戦が、がぜん楽しみになるではないか。

 最後に、この試合で日本代表が付けていた喪章について触れておきたい。これは去る6月18日に72歳で亡くなられた、アルゼンチン在住のJFA国際委員、北山朝徳さんの死去を悼んでものものである。北山さんは長年にわたり、JFAと南米の橋渡し役として貢献。2002年日韓ワールドカップ招致活動で南米サッカー連盟が日本支持でまとまったのも、日本がコパ・アメリカに招待されるようになったのも、この人の尽力と人脈があればこそであった。このウルグアイ戦での日本の戦いぶりに、天に召された北山さんは何を思っただろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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