錦織の“疲労”を突いたナダル 大会序盤の死闘を避けるためには

構成:スポーツナビ
 男子テニスで世界ランキング7位の錦織圭(日清食品)は4日、グランドスラムの第2戦「全仏オープン」シングルス準々決勝で同2位のラファエル・ナダル(スペイン)にセットカウント0−3で敗れ、自身初の準決勝進出はならなかった。

 3、4回戦とフルセットの死闘を勝ち上がってきた錦織。3日連続の試合となり疲労を隠せないなか、「クレーの王者」ナダルの前に完敗を喫した。厳しい条件下で、勝機を見出すならばどこにあったのか。元プロテニスプレーヤーの瀬間友里加さんに聞いた。

ナダルが狙った錦織の立ち上がり

ナダル(左)に敗れて自身初の全仏ベスト4を逃した錦織。勝負を分けたのは何だったのか 【写真:アフロ】

――3セットで計7回のブレークを許す完敗でした。

 ナダル選手がとにかく強かったですよね。錦織選手も今大会の調子は悪くなかったと思いますし、4回戦まで自分から早く攻めていく得意のプレーができていました。しかし準々決勝ではナダル選手のボールがものすごい回転量で重く、しかも深くくるので、錦織選手はやりたいことをやらせてもらえませんでした。

――錦織選手はどのような狙いで試合に臨んだのでしょうか?

 錦織選手と言えど、ナダル選手相手ではラリー戦になると相手のペースになる可能性が高いので、なるべく短い展開でポイントを取るために自分から仕掛けていきたいんだろうなとは感じました。

 フォアが強力なナダル選手ですがバックも非常にうまいです。錦織選手としては早い展開でストレートに打ったり、同じところに打たず散らすことで、左右前後に走らせてナダル選手のバランス、タイミングを崩して勝機を見出したいところでしたが……。

 昨日の試合では4回戦まででも見せていたドロップショットをあまり打ちませんでしたが、これは相手のボールがすごく深かったので、打てなかったのではないでしょうか。ラリー戦になる前に早い段階で打っていって、タイミングをずらすことができていれば、チャンスも見えたかもしれません。

――対するナダル選手の狙いはどこだったのでしょうか?

 錦織選手の得意とするサーブリターンを警戒していたと思います。そのためにエースを狙うようなファーストサーブではなく、しっかり入ることを優先したようなサーブでした。その後のストロークでは、錦織選手を前に出させないためにすごく深いボールを返していましたね。錦織選手に良いところを出させないような姿勢が見えました。

 あとは、錦織選手が3、4回戦とフルセットのゲームを戦って疲れている、というのはナダル選手の自信にもなったと思いますし、ラリーを続けて走らせることで体力的にダメージを与えよう、というのは頭にあったでしょう。

――試合が始まると、錦織選手は第1セット第2ゲームにいきなりブレークを許すなど序盤から圧倒されました。

 ナダル選手は1セット目からエンジン全開できていて、相手の自信を奪おうというのが最初からすごく見えていました。対する錦織選手は序盤、あまり動きがよくありませんでした。これは疲労の蓄積からだと思います。第3セットにかけて徐々に良くなっていきましたが、体があまりにも疲れていると、ゲームが始まりいざ動かそうという時に一歩目が出づらかったり、踏ん張りきれないということがあります。気持ちは最初から全力でも体がついていかないんです。

 また絶対にキープしないと厳しい展開になるというプレッシャーがあるなかで、確かにファーストサーブの率は高かったのですが、その分厳しいコースに狙うというよりは、入れることを優先したサーブになっていたようにも見えました。

万全な状態での対BIG3を見たい

4回戦が順延した影響もあり疲労はピークに。錦織はベストパフォーマンスを発揮できなかった 【写真:アフロ】

――今後は芝コートのシーズンに入っていきます。準々決勝、準決勝の壁を勝ち上がるために、錦織選手にはどのようなことが必要でしょうか?

 今回の試合でもファーストサーブの確率は両者とも72%と良かったです。ただそこからポイントにつながった確率がナダル選手は76%、錦織選手は44%と差が出てしまいました。トップ選手との差はファーストサーブでのポイント確率なので、ここを高めて、特に大事な場面でポイントを奪えるとベスト4以上にもつながってくると思います。サーブそのものというよりも、その後の組み立てですね。

 例えば4回戦まで見せていたサーブアンドボレーですが、芝に入るとよりやりやすくなります。クレーコートの場合は球足が遅くなるので、サーブがバウンドしてから相手がリターンのモーションに入るまで少し間が空きます。するとサーバー側としては返球の予測、判断がしづらく、さらにコートも滑るので難易度が高いんです。難しいクレーでこれだけできているのですから、芝になれば錦織選手の武器である早い攻めがより生きてくるでしょう。

――次のグランドスラムは7月のウィンブルドンになります。「BIG3(ナダル、ノバク・ジョコビッチ、ロジャー・フェデラー)」はじめトップ選手への対策はありますか?

 トップの選手は全員ストロークも素晴らしいですが、数字を見ると錦織選手との差は本当にわずかなので、万全の状態なら錦織選手がチャンスはあると思います。今回は見ている方も、錦織選手はさすがに疲れているから、長い試合は難しいのではと思った人が多かったのではないでしょうか。一方でナダル選手は大会通じて1セットしか落としておらず、元気いっぱいでした。3、4回戦の錦織選手は、リードしてから追いつかれてフルセットという展開でしたが、やはり大会序盤の“勝てる”試合は時間をかけずに取りたいですよね。

 大事なところでのファーストサーブポイントが決まれば、もっと早く試合を終わらせられたかもしれません。メンタルにも原因はあるかもしれませんが、こちらがリードすると、相手が開き直ってプレーが良くなるというケースはよくあるんです。その時に同じプレーを続けるのではなく、もう一段ギアを上げられるかが大事だと思います。

 クレーでの成績を見ても分かるように、足腰などフィジカル強化も年々進んでいます。また最近はトレーニングやケアの進化もあり、選手がより長く現役を続けられるようになりました。グランドスラムのベスト8常連と言える錦織選手ですが、さらに高いところを期待したいですね。

瀬間友里加さんプロフィール

【写真提供:株式会社レプロエンタテインメント】

1986年生まれ。父親がフランス人、母親が日本人のハーフ。2001年の全国中学生テニス選手権大会シングルス優勝など好成績をおさめ、05年2月にプロ転向。08年には全日本テニス選手権で準優勝、09 年には全米(US オープン)本戦出場と活躍。15年の現役引退後はテニス解説や「ellesse」のブランドアンバサダーの他、テニスコーチとしても活動している。
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著者プロフィール

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