ラグビー日本代表、異例の強化は実るか 「2チーム制」を選んだ指揮官の信念

斉藤健仁

両チームの誤算になったケガ人の続出

昨秋の左肩負傷から復活し、サンウルブズのブランビーズ戦に出場したCTBラファエレ ティモシー 【築田純】

 両チームにケガ人が多数で出た影響も大きかった。「サンウルブズが良い成績を残さないといけないことも念頭に置いていた」とジョセフHCが言うとおり、サンウルブズには中軸となる選手がいた。しかし、昨年のベスト15だった共同主将のCTBマイケル・リトル、昨年、全試合に出場したもう一人の共同主将PRクレイグ・ミラー、HO庭井祐輔、オールブラックス経験のあるCTB/WTBレネ・レンジャー、今年ブレイクが期待されたCTBシェーン・ゲイツらがケガで、チーム離脱を余儀なくされた。

 一方の日本代表候補でも合宿前にケガや手術をしていてコンディションを落としていたHO堀江翔太、SO田村優、WTBレメキ ロマノ ラヴァがおり、さらに合宿中にはFLリーチを筆頭に、PR具智元、LOアニセ サムエラ、FL姫野和樹、WTB福岡堅樹、CTBウィリアム・トゥポウらが相次いで負傷。そのため、合宿中にケガをした選手と合わせて、PR稲垣、LOヴィンピー・ファンデルヴァルト、FLピーター・ラブスカフニ、SH流大は今年のサンウルブズスコッドにも関わらず、1秒たりともスーパーラグビーでプレーすることはなかった。

 リーチは当初「8節まではサンウルブズで出ない」と語っていた。個人的には4月下旬のホームの連戦や5月末から6月のホームの連戦では、ほぼ日本代表の主力からなるサンウルブズが見られると期待していた。しかし、上記のような理由があって、難しくなった。ジョセフHCは「サンウルブズでも一貫したパフォーマンスをすることが困難で、結果的にウルフパックに影響を及ぼした」と理解を求めた。どうしても「サンウルブズ軽視なのでは」とファンに思われてしまうのはしょうがないところか。あくまでもピークはワールドカップに定めている。

サンウルブズで結果を残したFB山中らを選出

日本代表候補のFL徳永祥尭は7人制日本代表の経験もあり、オールラウンドな能力が評価されている 【築田純】

 一方で、ジョセフHCの選考基準は明確だった。それは「一貫性を持ったプレーをすること」、「複数ポジションでプレーできること」である。

 今回、サンウルブズから選ばれた選手の顔ぶれを見ていると、12試合に出場したPR山下裕司、8試合に先発して代表に2年ぶりに返り咲いた38歳のLOトンプソン ルーク、11試合中10試合に先発したFLツイ ヘンドリック、FL、NO8だけでなくCTBでもプレーし12試合に出場したラーボニ・ウォーレンボスアヤコ、9試合に出場したSH茂野海人、7試合に先発したFB山中亮平としっかり結果を残している選手たちだ。

 またウルフパックでもPR木津悠輔、バックローからPRに転向した中島イシレリ、CTB梶村祐介がアピールに成功し、42名に入った。

 木津と中島に関して指揮官は「木津には非常に感心している。若手で入ってきたが、戦えるところを自ら立証してくれた。非常に激しい選手で、機動力もあってフィールドではとても動ける。我々が求めるスキルを持ち合わせているので、将来有望な選手。中島は忍耐強く鍛えていった中で手応えを感じている。大きくて強いストロングキャリアーで、スクラムもしっかり組める」と高く評価した。

 梶村に関してジョセフHCは「サンウルブズでリトルと競合させて、梶村の方が上回るかといったらそうではない。サンウルブズは違う意図を持って戦っていかないといけないので、そこを阻害したくない気持ちもあった。何がベストかを考えた。13番としてまだまだの部分もあったが、彼の成長をウルフパックにいたから妨げたと思っていない」とサンウルブズではなく、ウルフパックで起用した意図を語った。

15年W杯組のCTB立川、WTB山田は落選

2015年ワールドカップのサモア戦で素晴らしいトライを見せたWTB山田章仁は今回の日本代表から外れた 【写真:ロイター/アフロ】

 ただ2015年ワールドカップ組のCTB立川理道とWTB山田章仁の落選は驚きを持って報じられたが、指揮官は「苦渋の決断だった。勝てるチームを選んだ。その中でバランスを取った」と説明。両チームに籍を置いたCTB立川は一貫したパフォーマンスを発揮できず、WTB山田はウルフパック1試合の出場にとどまり、代わりに“唯一の海外組”でありチーフスで9試合3トライを挙げた万能BKアタアタ・モエアキオラ、サンウルブズで4試合に出場したWTB/FBヘンリー ジェイミー、WTBとFBの両方でプレー可能な野口竜司が入った。

 FW24名に対して、BKは16名とかなり絞り込んでおり、本番は13名と予想される。「競争が激しい」と指揮官も公言していたWTB、FBの総称であるバックスリーには福岡、レメキ、松島と「Xファクター」(ジョセフHC)がいるため、WTB専門職はそれ以上、必要なかったというわけだ。

チーム力、結束力を高めることができるか

新たな段階に進んだ日本代表、いよいよ強化は本番を迎える 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 いずれにせよ、異例の2チーム体制で臨んだ結果、ケガ人が続出したとはいえ、サンウルブズで日本代表の主力があまりプレーしないシーズンとなってしまった。今年のサンウルブズのメインのイメージカットに出ていた選手で、6月1日のホーム最終戦に出ていたのはSOヘイデン・パーカーのみ。FL姫野、リーチ、SH流、SO/CTB松田力也、CTBリトルと残り5人が試合に出ていなかったのは少々寂しかった。

 ただ日本代表の主力選手はしっかりとコンディションを整えることができ、サンウルブズでアピールした選手たちも2週間の休息を経て宮崎に集う。ここまでのプランニングはある程度予定通りだったと言えよう。

 6月からいよいよ、ワールドカップで戦う相手を想定した練習を行い、新たな戦術も試すという。5月まではいわば、準備期間であり、ジョセフHCが個々の選手を見極める期間にもなった。ここからいよいよ強化は本番を迎える。宮崎合宿、PNCを経て、どのくらいチーム力、結束力を高めることができるか。それがワールドカップの結果に直結するはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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