コパ・アメリカ2019連載

水沼貴史氏が森保一監督に意気込みを聞く「しぶとく勝ち上がりたい」

構成:YOJI-GEN

ブラジルへの出発を前に実現した今回の対談。旧知の間柄だけあって、終始リラックスした雰囲気だった 【新井賢一】

 コパ・アメリカは100年以上の歴史を誇る世界最古の大陸選手権だ。日本代表は今回、この南米最大のサッカーイベントに、招待国として1999年大会以来、2度目の出場を果たす。若手主体のメンバーで臨む森保ジャパンは、本気モードの南米諸国とどんな戦いを見せるのか。元日本代表MFの水沼貴史氏が、開催国ブラジルへの出発を前に準備を進める森保一監督に意気込みを聞いた。

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激しさ、厳しさがちょっと尋常じゃない

水沼:今日はよろしくお願いします!

森保:よろしくお願いします。貴史さんの前だと背筋が伸びます(笑)。

水沼:いやいやいや。そんなことないですよ(笑)。早速ですが、コパ・アメリカのイメージってありますか?

森保:イメージですか……。ピッチ(状態)があまり良くないなかで、すごく激しく、厳しいバトルというか、インテンシティの高い試合をやっている印象があります。

水沼:今大会で46回目なんですよね。100年くらい歴史がある。今、森保監督が話したようなイメージが僕のなかにもあって、前回と前々回、チリが優勝した2大会を見て、「なんて素晴らしい大会なんだ」と。「(選手やファンが)これだけ熱くなる理由が分かる」と思いました。そんな熱い大会で、選手たちにはどんなことを体験してほしいですか?

森保:おそらく選手たちは、育成年代のときから何度も南米のチームと試合をしているはずです。ですが、コパ・アメリカで対戦する南米のチームは、さらにギアが上がった、そういうレベルだろうと思います。そのレベルの高さを感じて、今後の成長につなげていってほしいですね。

水沼:「うまい」とか、「強い」、「速い」とか、いろんな表現があると思うんですけど、向こうの大陸の選手というのは、なんて言うかこう、「戦うレベル」が違う感じがするんですよね。

森保:貴史さんが……すみません、水沼さんが(笑)。

水沼:いいです、いいです。「貴史さん」のほうが僕もしゃべりやすいです。「ポイチ」って言っちゃったらごめんなさいね(笑)。

森保:大丈夫です(笑)。そう呼んでください、僕もそのほうがいいです。コパ・アメリカは、本当にそう思いますね。戦うレベルが違う。激しさ、厳しさがちょっと尋常じゃないくらい。常にケガと隣り合わせで、そこをどうかいくぐっていくか、みたいな。日本の選手は本当にうまさを持っていると思いますので、激しく、厳しい戦いのなかで相手をどうかわすとか、そういうものを培ってほしいです。

水沼:今回、初選出の選手が13人います。そういう若い選手が「本物の戦い」を経験してグッと伸びるというか、監督としても「こいつ変わってきたな」と実感するときがありますよね。

森保:そうですね。東京五輪世代の代表監督として若い選手たちを1年半くらい見ていますが、選手がひとつの経験をきっかけにどんどん変わっていく姿を目の当たりにしてきました。コパ・アメリカでの経験を通じて、選手たちがさらにグググっと伸びていくのではないかと思っています。

水沼:メンバーを選考するにあたって、この選手にはこうなってほしいみたいなイメージは一人ひとりにありました?

森保:はい。一人ひとりかはともかく(笑)。例えば、球際の争いにしても、足首から持っていかれるとか、極端な話、殺気がするくらいのプレッシャーがあると思うんです。そんななかでボールを扱わなければならないわけで、これまでとは違うレベルの経験ができるはずです。その経験を通して、チームとして力をつけてくれるだろうと思っています。

水沼:南米選手の深いタックルだったり、強さだったりを、この選手ならこんなふうにかわしていくだろうな、みたいなイメージは浮かびます?

森保:最初はタックルに食われるというか、転んだり、球際で負けるかもしれないですけれど、試合の中でも選手は変わっていくんじゃないかと。やられた経験を生かしてかわす術を身につけるとか、よりタイミングのいい当たり方をするとか。
 僕が監督としてできるのは、選手たちが勇気を持ってチャレンジできるよう導くことです。何回止められてもあきらめずに突破を図るとか、相手に打ち勝つためにチャレンジしてほしいですね。
 今こうして話していて思いました。やられることが前提になっているところがありますが、「本当はできるんだ」というところを見てみたいなと。今の選手、特に海外組を見ていると、「誰とやっても目線が同じだな」というのを感じますし。

水沼:メンタル的にもそうなんだよね。

森保:本当にそうです。プレミアなら「(ロメル・)ルカクはこうしてる」とか、「(エデン・)アザールだったらどうする」とか。フランスリーグなら「ネイマールだったらこういうことをしてくるよね」とか。コパのメンバーは経験の浅い選手が多いですけど、彼らもそういうメンタリティーを持っているだろうと思います。「あれ? こんなにできるんだ」って、いい意味で驚かされることを期待しています。

水沼:そういうサプライズは欲しいね。

森保:気持ちの面だけでも、「俺らはできるぞ」と思ってプレーしてほしいですね。最初から相手をリスペクトしすぎるのではなく。Jリーグで育った選手が世界でも通用するというところを見せてほしいです。

久保健英はFC東京で結果を出したから

今大会の大きな注目が18歳で抜擢された久保の存在だ。南米の猛者を相手に、そのプレーがどれだけ通用するか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

水沼:選手選考、特に若い選手を選ぶ際に基準にしていることはあります? 「これをクリアできているから代表に呼ぶ」みたいな。

森保:基本は技術ですかね。あとは特長を持っているか。強いとか、速いとか、高いとか、ドリブルがうまいとか。誰にも負けない武器は、プロの世界、特に代表では必要です。もちろん、止める、蹴る、運ぶ、走れる、戦えるという基本的なところは絶対ですけど。それにプラスして、スペシャルなものを持っている選手がどんどん出てきてほしいですね。

水沼:久保(建英)なんかは本当に期待が大きい。これからどうなるんだろう、どんなふうに成長していくんだろうって、僕自身もすごく楽しみで。今大会でも、厳しい戦いのなかで「彼はどこまでやるんだろう」みたいな楽しみはありますよね?

森保:ありますね。建英はただ話題性があるからではなく、FC東京で結果を出して存在感を示したのでA代表に呼びました。将来が本当に楽しみですし、今大会を経験してさらに成長してもらいたいです。もちろん、他の若い選手が伸びてくるかもしれません。選手たちには現時点での力や(チーム内での)立ち位置を伝えながら、「そこから成長していくことが大切なんだ」と強調したいですね。

水沼:それに、唯一の大学生として上田(綺世)。彼は僕の後輩なんですけれど。

森保:あ、そうですね。法政大じゃないですか。

水沼:おそらく大学生とか、そういうふうには考えていないと思うんですが。

森保:そうですね。年齢とか、学生とかはあまり気にしていないですね。彼はすでに東京五輪代表チームで活躍してくれていて、点を取る感覚、ストライカーとして非常に良いものを持っていると思います。

水沼:若手では、あと岩田(智輝)。(森保監督が)大分の試合に視察に行ったら、周りはたぶん藤本(憲明)を見に来たと思うだろうけど、実際は「え、岩田だったの?」みたいな。

森保:そうですね(苦笑)。岩田は見ています。

水沼:ね!(笑)。

森保:大分では3バックの右をやっていますが、プレー自体はサイドバックのときとさほど変わりません。東京五輪チームは3バックでやっていて、A代表は4バックですが、センターバックもサイドバックも基本的な部分では求めるプレーは変わりません。岩田は両方のポジションで考えていて、どんなシステムにも対応できるのか、そのあたりも見極めていきたいです。
 話は戻りますが、視察に行くとよく聞かれるんですよ。「誰を見に来たんですか?」って(笑)。

水沼:そうだよね。

森保:いつも思うのは、「あれ、ざっくり見るつもりなのにな」と(笑)。

水沼:特に「誰」とターゲットを絞って行くわけではなく?

森保:そうですね。いい選手って、試合を見ていたら自然と浮かび上がってくると思っているので。フォーカスする選手がいるのは否定しませんけど、「あ、こんな選手がいるんだ」とか、そういう新しい発見も目的に視察しています。

水沼:(今大会のメンバーは)後ろのほうというか、ディフェンスラインが結構若いですよね。意図的にですか?

森保:意図したところもありますし、今回は招集できる選手に制限がありましたので、そのなかで集めたらこうなったという側面もあります(※注・参照)。

※注:FIFA(国際サッカー連盟)の規定により、日本サッカー協会は今年のアジアカップに出場した選手を所属クラブの承諾なしにコパ・アメリカに招集することができなかった。

水沼:今回はそういうマネジメントの部分ですごく難しかったと思うんですよね。メンバーを選ぶうえで一番悩んだのはどんなところですか?

森保:悩んだところですか。僕自身はあまりないですね。僕よりも(選手派遣の)調整をしてくれたクラブ側と協会の方々が大変だっただろうと。

水沼:

森保:本当に大変だったと思いますよ。僕は自分の担当というか、A代表と五輪世代のチームの監督として、トゥーロン国際大会(U-23の国際大会)、キリンチャレンジカップ、コパ・アメリカという3つの大会に、それぞれ誰を招集すべきかを考えて要望を出しただけです。希望がかなわなかったところもありますけど、そういうケースはこれまでにもありましたからね。選手がケガや体調不良で辞退したりですとか。

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