内弁慶だったFC東京・高萩洋次郎 恩師の言葉が成長を加速させた

後藤勝

コミュニケーション重視のオフトの教え

恩師・高田豊治さんがコミュニケーションの重要性を高萩に説いたのには、オフトの教えがあった 【佐野美樹】

「そうは言われても」と高萩は、内心独りごちた。性格の改善は容易ではなかったが、高田さんは諭し続けた。それは、ハンス・オフトの教えを守ってのことだった。

 高田さんがJヴィレッジに関わったのは1996年の準備室から。それまではサンフレッチェ広島で育成部長を務め、その前はマツダ系列の企業チーム、札幌マツダ(アンフィニ札幌)へ経営管理出向し、指導していた。選手のほとんどが営業マンで夕方には集まれず、6年半の間、早朝練習を実施した。販売店が基本的に休みとなる火曜日だけは日中に練習し、あとは週3回、早朝(6時30分〜7時50分)に練習をしていた。1週間に4回の練習というのは、プロチームと同様の設定である。この6年半の間に、北海道リーグ優勝4回、天皇杯本大会に3度出場させている。さらにさかのぼれば、高田さんはオフトが指導するようになる2年前から、マツダ(サンフレッチェ広島の前身)でコーチをしていた。オフトの通訳を兼ねた時期には、欧州の知見を吸収、トップレベルの指導をする基盤を整えた。やがて、はまなす国体を控えた北海道の販売店へと異動になり、前任者の推薦によって札幌マツダを指導することになったのだ。

 サンフレッチェ、そしてモダンな日本代表の源流とも言えるオフトの薫陶を受けた高田さんは、現代サッカーのなんたるかを知り、広い視点で選手を観察できる指導者になっていた。その高田さんからすれば、高萩には磨かなければならないところがいくつもあり、最たるところがコミュニケーション能力だったのだ。

「その当時のU-15日本代表監督を務めていた田嶋幸三氏に『サッカースクールに面白い子がいるので、入れてもらえれば』とお願いして、洋次郎も一緒に練習をさせてもらいましたが、そのときも黙々とやっていた。もう、全然、しゃべらないんですよ。だからコミュニケーションを取らないとダメだ、と言い続けました。繰り返し言うことが大事。それはオフトも言っていました。マツダ時代、私が練習試合の指導をすると、『何で、お前は黙っているんだ』と。修正しなければならないプレーに気づくだろう。それを選手が適切にできるようになるまで言わなければいけない――日本の指導者は『1回言った、2回言った、もう分かっているはずだ』と繰り返し言いませんが、それではいけないというのです。だから私も、子どもの考え方を奪うのではなく、身につけなければいけないベーシックなことは繰り返し言って、身につくまで指導者は言い続けるべきだと。オフトは繰り返し伝えることの重要性を常に言っていました」

 この点に関しては、高萩がサンフレッチェ広島ユースに進み、場数を踏むまでは、根本的に解消されなかったが、それでも中学生の段階から意識付けをしておかなければ、場慣れしようともしなかっただろう。兄貴分然とした現在の高萩からは想像もつかない少年時代。内弁慶だったベクトルを変えようと言葉を重ね続けた高田さんの根気強さが、その後の成長につながっていた。

<後編に続く>

(企画構成:SCエディトリアル)

【佐野美樹】

高萩洋次郎(たかはぎ・ようじろう)
1986年8月2日生まれ。福島県いわき市出身。FC東京所属。MF/背番号8。183センチ/69キロ。地元・植田町でサッカーを続けながら、Jヴィレッジサッカースクールに通い、恩師である高田豊治さんに指導を受けた。中学卒業と同時に、サンフレッチェ広島ユースに加入。高校3年生だった2003年にはサンフレッチェ広島でJリーグデビュー。その後、主力へと台頭すると、2012年のJ1優勝、2013年のJ1連覇に貢献。ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC、FCソウルを経て、2017年にFC東京へ加入。ボランチとして攻守でチームをけん引し、3シーズン目を迎えている。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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