U-18侍ジャパンが春に合宿を行う意義 球児の心に響いた「世界一」の合言葉

松倉雄太

「気持ちの部分でどれだけ上げられるか」

センバツ優勝投手で打者としても評価が高い東邦・石川(写真左)。当然夏の甲子園優勝を目標に掲げるが、西谷氏はその先にある世界一への心構えを説いた 【写真は共同】

 次に指名したのは石川と智弁和歌山の主将・黒川史陽だった。

西谷氏:石川くんの夏の目標は何ですか?

石川:甲子園で優勝することです。

西谷氏:甲子園で優勝、春夏連覇ですね。それを目標にやられていると思います。黒川くんの夏の目標は何ですか?

黒川:5季連続で甲子園に出場して、そして夏、日本一になることです。

 夏の甲子園、そして日本一という高校球児にとっては当然ともいえる目標を聞いた西谷氏はこう続けた。

「今日からは胸の中に、世界一になるということ。その目標をここに来た限りは、全員に持ってもらいたい。なぜなら、夏の甲子園決勝が終わったと考えてみてください。優勝して喜んで、他の選手たちはゆっくりする、喜びに浸っている時間があると思います。特に3年生はホッとする、3年間頑張ってきて良かったと言える時だと思います。でも代表の選手はすぐに集まり、新しいチーム作りに入ります。体も気持ちも、もう一度(大会へ向けて)上げていかないといけない。今日から、自分は侍ジャパンのユニホームを着て、世界一になるんだということを心に持ってもらいたい。その気持ちを作るのが、この3日間の目的の一つ。体の部分はもちろんですが、気持ちの部分をどれだけ上げていけるかが大事。まずは日本一の向こうに世界一があるんだということを考えてもらいたいと思います」

 日本一という目標の向こうにある世界一の目標。これを代表候補選手に植え付けることが、この時期に集められた目的の一つでもある。

 合宿終了後に会見した日本代表の永田裕治監督も、「みんな夏に日本一を狙っているが、その先にある世界一を狙う。これが彼らの合言葉になった。3日間、選手に日誌も書いてもらったが、みんなの心にかなり(世界一という目標が)響いてきたと感じました」と語る。それだけでも、この研修合宿を開催した意義があったと言える。

「アンリトゥン・ルール」についても学ぶ

 座学ではドーピング検査と国際試合に臨む上での野球についても学んだ。

 特に国内の野球ではあまり重要視されない「アンリトゥン・ルール」(不文律)などのマナーやルールに関しては、国際審判員の山口智久氏が過去の映像も見せながら解説を行った。

 その中から「アンリトゥン・ルール」について触れたい。以下、資料より。

野球規則には書かれていない暗黙のルールの遵守
・国際大会では相手国をリスペクトすることが求められます。
・大会前には相手国の歴史、文化、政治体制、野球の歴史や普及状況など、できる限り相手国のことを知ることが必要です。
・そして、最後には、その国の国民性までも知り尽くして戦うことが歴代オリンピックチームが築いてきた取り組み姿勢です。

Unwritten rules
現在の国際マナーの主なものを記しますので、徹底を図ってください。
1.初回から送りバントはしない。(ベースボールは打つゲームです)
2.大量得点差(7点差以上、相手が格下の時は5点差以上)の時には、
・盗塁をしてはいけない。(相手がパスボールをした時は除く)
・スクイズはしない。(Squeezeとはすり取るという意味であり、1点がほしい時のみ用いる作戦)
・3ボール0ストライクから打ってはいけない。
・けん制球を投げてはいけない。
3.相手国との著しい実力差があるときは、変化球を投げない。ストレートのみ。
4.相手のメンツをつぶしてはならない。特にホームランを打った時には、ガッツポーズはしてはならない。
5.打席で後ろをのぞいて捕手のサイン、動作を盗み見してはいけない。
6.大差の試合で控えの選手をどんどん出場させてはならない。

 この資料をもとに、映像を見て山口氏の話を聞いた代表候補選手たちは、「知らないことが多かった。勉強になりました」と感想を話した。

 こういったことを早くから頭に入れておくと、8月に本メンバーで直前合宿を行う際に、国際試合へ向けての気持ちが入っていきやすくなる。

2/3ページ

著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント