2017年 DAZN元年への道 <前編>
シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」

「Jリーグはアジア、世界に話題を発信できる」

DAZNがJリーグ中継を開始して3年目となる。写真は放映権契約会見当時のもの
DAZNがJリーグ中継を開始して3年目となる。写真は放映権契約会見当時のもの【写真:つのだよしお/アフロ】

「このオフは副理事長の原(博実)さんと一緒に、欧州でプレーしているベテランの選手たちに現地で会ってきました。レスターの岡崎(慎司)選手、ストラスブールの川島(永嗣)選手、フランクフルトの長谷部(誠)選手、それからサウサンプトンの吉田(麻也)選手とガラタサライの長友(佑都)選手。それぞれ3時間くらいインタビューしたかな。日本代表のことだけでなく、『Jリーグがどうあるべきか』についても深掘りして話を聞きましたね。彼らがJリーガーだったのはずいぶん前だけれど、みんな思い入れをもって語ってくれてね。すごく大きなお土産をもらって、今は頭の中で整理しているところです」


 2019年のJリーグ開幕を翌週に控えた2月14日。都内で開催されるJリーグキックオフカンファレンスの直前に、Jリーグチェアマンの村井満に今オフでの動きについて尋ねたところ、いかにもこの人らしい答えが返ってきた。その後のカンファレンスでは、アンドレス・イニエスタやチャナティップを含むJ1選手18名が並ぶ中、村井は「Jリーグは日本国内だけでなく、アジア、世界に話題を発信できると確信しています」と力強いコメントを残している。その確信の源にあるのが、Jリーグ中継を開始して3年目となるDAZNにあることは間違いないだろう。


「Jリーグ25周年」を、当事者たちの証言に基づきながら振り返る当連載。最終回となる今回は、2017年(平成29年)をピックアップする。この年の12月、皇室会議と閣議の決定により、2年後の4月30日をもって今上天皇の退位が決定。平成という時代の終焉へのカウントダウンが始まった。Jリーグに目を移すと、J1では川崎フロンターレが鹿島アントラーズとのデッドヒートを土壇場で制して初優勝。04年の昇格以来、ずっとトップリーグにとどまり続けていたアルビレックス新潟は、15シーズンぶりとなるJ2降格が決まった。またJ2からはV・ファーレン長崎が2位で自動昇格を決めている。


 しかしながら、この年の最大のトピックスといえば、やはり「DAZNによるJリーグ中継の配信」であろう。それまでのスカパー!によるCS等での中継に慣れきっていたJリーグファンにとり、DAZNの出現はまさに寝耳に水。大げさでなく「黒船来航」そのものであった。加えて17年の開幕当初、DAZNに対するファンの評価は「画質が悪い」「すぐ止まってクルクル状態になる」「テレビ画面での接続がよく分からない」などなど、散々なものであった。実際、2月26日の開幕戦では、J1とJ2で1試合ずつ、DAZNが視聴できないというアクシデントも発生している。

「それでもファンはすぐに慣れる」

「社長以下、社員全員がスポーツ好きのパッションを持った人間ばかり」とDAZNの平田
「社長以下、社員全員がスポーツ好きのパッションを持った人間ばかり」とDAZNの平田【宇都宮徹壱】

 それから4日後の3月2日、DAZNを運営するパフォーム・グループは、メディア向けの緊急会見を開いている。実は私も現場で取材していたが、そこで驚いたことが2つ。まず、ロンドンに本社があるDAZNのトップが、驚くべきスピード感をもって会見を行ったこと。そして登壇者であるジェームズ・ラシュトンCEOとウォーレン・レー開発部長が、そろって深々と頭を下げて謝罪したことである。


「弊社はいわゆる外資ですので、ビジネスとしてドライに感じられる方も少なくないと思います。でも実は社長以下、社員全員がスポーツ好きのパッションを持った人間ばかりなんですよね。ですからあの謝罪会見でも、まずは日本式に頭を下げました。しかもジェームズのほうから(会見に同席した)村井さんに『日本式の謝罪の仕方を教えてほしい』と聞いたそうです」


 そう語るのは、DAZNのアクティベーション・バイスプレジデントである平田正俊。平田がDAZNに入社するのは、これから約半年後のことであるが、この謝罪会見は今でも社内では語り草となっているようだ。一方、前年の16年シーズンをもってJリーグの放映権を失ったスカパー!は、一連の出来事をどう見ていたのだろうか。この疑問に答えてくれたのは、スカパーJSAT株式会社の取締役執行役員専務であり、メディア事業部門長兼コンテンツ事業本部長の小牧次郎だ。


「確かに出だしで事故がありましたが、それでもファンはすぐに慣れるだろうと当初から思っていました。それ以外にも、画質が悪いとか、すぐクルクルするとか、いろいろ言われていましたよね。けれども、そこは技術的に改良すればいい話だし、見ている人たちも慣れてくるだろうと」


 確かに画質の改善には、一定以上の時間を要した。それでも小牧の言葉どおり、ファンは驚くべきスピードでDAZNに順応していった。そればかりかJ1からJ3までの全試合を中継したこと、そしてスマートフォンなどのデバイスで「いつでもどこでも」視聴できるようになったことなど、視聴者はOTT(オーバー・ザ・トップ)配信のポジティブな面を評価するようになっていく。今回はDAZN元年を迎えるまでのJリーグ中継の劇的な変化について、スカパー!の小牧とDAZNの平田、そしてJリーグチェアマンである村井の三者の視点から振り返ることにしたい。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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