森保監督は北川に何を求めていたのか?  GS突破も、勝因は「2つの判定」

宇都宮徹壱

「弱者に勇気を与える」今大会のレギュレーション

オマーンの監督は大宮や京都での指揮経験もある知日派。日本にとってはやりにくい相手かもしれない 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 アジアカップ9日目。この日は15時からアル・アインで北朝鮮対カタール、17時30分からアブダビでオマーン対日本、そして20時からはドバイでトルクメニスタン対ウズベキスタンが行われる。グループステージの2巡目は、この日で終了。2勝すればグループ突破が決まり、2敗目を喫したらグループ敗退が決まる──。16チームでのレギュレーションではそうなっていた。しかし今大会は出場国が24チームに増加したため、3位の上位4チームもノックアウトステージに進出できるようになった。これは「弱者に勇気を与える」レギュレーションと言える。

 では、3位突破のボーダーラインはどこにあるのだろうか。参考になるのが、3年前に開催されたユーロ(欧州選手権)2016である。ユーロもこの大会から、出場国が16から24に増加。当初はレベルの低下が懸念されていたが、3番手の頑張りが大会を盛り上げたことは間違いない。この大会で、3位からノックアウトステージに進んだ4チームは、いずれも勝ち点3以上。スロバキアとアイルランドが1勝1分け1敗、ポルトガルが3分け、北アイルランドが1勝2敗だった。トルコとアルバニアも1勝2敗の勝ち点3だったが、得失点差±0の北アイルランドが最後の枠に滑り込んだのである。

 そもそも3位チームにチャンスが与えられなければ、ポルトガルが優勝することはなかったわけで、まさにレギュレーションの変更がもたらしたドラマであった。が、さすがにアジアカップで、同様のケースが起こるとは考えにくい。それでも3番手のチームにとっては「1勝1分け1敗」、あるいは「1勝2敗の得失点差次第」でも、十分にラウンド16に進出するチャンスがある。となると、3番手以下の上位陣に対するモチベーションも、自ずと変わってくるのは間違いない。初戦でウズベキスタンに1−2で敗れ、試合開始前の時点ではグループ4位となっているオマーンもまた同様であろう。

 初戦を落としたとはいえ、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングは82位で、グループでは日本に次いで2番目。第2戦の日本は確かに格上だが、やり方次第ではドローに持ち込めるかもしれない。加えて監督のピム・ファーベークは、大宮アルディージャや京都パープルサンガ(当時)での監督経験がある知日派であり、その後は韓国代表(06〜07年)やオーストラリア代表(07〜10年)の監督として日本ともたびたび対戦している。今回のオマーンはある意味、トルクメニスタンとは違った意味で、日本にはやりにくい相手と言えるかもしれない。

スタメンからうかがえる森保監督の慎重さ

試合は序盤から日本がペースを握るも、3つの決定機を立て続けに逃した 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 迎え撃つ日本は、連勝すればグループ突破が決まるが、森保一監督はそこに重きは置いていない様子。前日会見では「(2戦目で)突破を決められたらチームにとっていいこと」としながらも、「3戦目になってもグループ突破をすることが大切」と語っている。ちなみに、日本が1位抜けならグループEの2位と、2位抜けならグループBの2位と対戦する。試合開始前での順位でいうと、前者がカタール、後者がオーストラリア。ラウンド16での日豪戦は気が重たいが、グループDの1位抜けが濃厚なイランとの対戦は決勝まで持ち越される。いずれにせよ日本は、まずは目前のオマーンに集中すべきであろう。

 この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK権田修一。DFは右から、酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋、長友佑都。中盤はボランチに柴崎岳と遠藤航、右に堂安律、左に原口元気、トップ下に南野拓実。そしてワントップに北川航也。個人的に注目していたのは、大迫勇也の穴を誰が埋めるか、そして柴崎とコンビを組むのは誰か、であった。前者は武藤嘉紀、後者は塩谷司を予想していたのだが、実際にはFWで最もキャップ数が少ない北川(これが5試合目)、そして発熱で合流が遅れていた遠藤がチョイスされた。ちなみに、初戦でボランチに起用されていた冨安は、今回はセンターバック(CB)での出場となった。

 このラインアップから、良くも悪くも感じられるのが、森保監督の慎重さである。メンバーの入れ替えは最小限にとどめ、初招集組ではなく、現体制で出場実績のある選手を優先する。武藤と塩谷、そして乾貴士の初招集組について、指揮官は「3人とも私が監督やコーチとして一緒に試合や大会を戦った経験のある選手」であり、「チームにどうフィットするのかを踏まえた上で招集しています」と語っていた。確かにそうなのだろうが、一方で当初の23人と追加招集の選手との間には、明確な線が引かれているようにも感じられる。その序列が「総力戦」の足かせにならなければよいのだが。

 試合は、序盤から日本がペースを握り、3つの決定機を立て続けに逃した。前半2分、堂安がドリブルで右サイドから持ち上がり、折り返したボールに原口が右足で合わせるもクロスバー。8分、こぼれ球を拾った南野が、GKと1対1の場面を作るもブロックされる。南野は12分にも、冨安からのロングフィードを左サイドで受けてシュートを放つも、弾道は惜しくも枠を外れた。「そろそろ決めないと危ない」と思った矢先の20分、オマーンはカウンターから前線にボールが流れ、ムフセン・アルガッサニが権田をかわしてシュート。幸い、わずかにポストの横に逸れて事なきを得た。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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